一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




すると式場内で新婦入場の演奏が始まり、扉の外側にいる繭と咲にも聞こえきた。

スタッフの手によりゆっくりと扉が開かれると、フラワーガールとして先に歩き出した咲は、片手に持つ籠に入った花びらを笑顔でバージンロードに撒いていく。

堂々と役目を果たす娘を逞しく思いながら、その後ろを一歩一歩前に進んでついていく繭。


会場の全員が咲と繭を温かい眼差しで見つめている中、繭が見つめる視線の先には。



「……椿さん」



すらりとした長身にブラックタキシードを違和感なく着こなす、いつも以上に男前で色気を放つ椿が祭壇の手前に立っている。

そして自分に向かって歩いてくる娘と妻の姿を確認して、優しい瞳で微笑んだ。




「繭先輩、綺麗〜!」
「娘ちゃんも可愛いー!」
「里中、おめでとうっ」



繭の後輩達と、入社してから今までずっとお世話になっている部長の声が聞こえる。



「あ、さききたよ!」
「繭さ〜ん咲ちゃ〜ん!」
「おめでと〜!」



咲を見つけた陸がキラキラした笑顔でマスターの奥さんと共に手を振り、マスターはお祝いの言葉をかけてくれた。



「これからも椿を幸せにしなさいよっ」



誰にも聞こえない声で呟き、繭の事は直視せずに拍手を贈る凛だが、視線を合わせなくても気持ちは十分伝わっている繭。



「繭、綺麗よ……咲ちゃん可愛すぎるわ」
「あとでお小遣いたっぷりあげよう」



たとえ離婚していても、一人娘の晴れ姿を誰よりも喜び、初孫の誕生と成長ですっかり溺愛祖父母となった繭の両親。


それぞれの思いを感じ取りながらバージンロードを歩く繭は、これほどまでに温かく見守られ祝福される事に感動して。

気付けば目には涙をいっぱいに溜めて、こぼれ落ちるのを必死に我慢していた。



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