一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




先に椿の下へ到着した咲は、本来ならゲスト席へ戻るところをパパである椿の隣に並んで立ち、繭の到着を一緒に待った。



「咲、上手だったな」
「えへへ〜」



褒め言葉に加えて頭を撫でられた咲は、満面の笑みで応えると椿と手を繋ぐ。


役目を終えた咲が安心した表情でゲスト席に目を向けた時、こちらを見つめていた陸と目が合った。

ほんのりメイクをして普段より大人びていた咲に、ドキンと胸を鳴らした陸はつい俯いてしまったが、天真爛漫な咲は気付いてもらおうと手を振っている。



「陸、咲ちゃん手振ってるよ?」
「はずかしい……」
「え〜?ほら、返してあげて」



目線だけをもう一度祭壇の方に向けると、未だに手を振る咲がいたので、仕方ない様子で控えめに振り返した。

あんなに待ち侘びていた咲にようやく会えたのに、急に縮こまって再び大人しくなってしまう陸。


だけどそれには理由があり、バージンロードに花びらをまき散らす咲が、絵本から飛び出してきた可愛いお姫様のようで。

友達として大好きな女の子に、初めてドキドキ胸が高鳴り顔が熱くなる経験をしたから。


陸がその気持ちを恋だと知るのは、もう少し成長してからの話。



「ぼく、さきとけっこんしたい」
「……え?」
「そうしたら、ずっといっしょにいられるんでしょ?」



この発言を聞いたマスター夫婦は、芽吹いたばかりの小さな小さな可愛い恋心を、大切に見守っていこうと決意すると共に。

未来へと引き継がれる愛の欠片が、どうか実って花咲きますようにと願い、微笑みで返した。



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