一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




一歩ずつ、今まで歩んできた人生のようにバージンロードを進む繭は、もうすぐ椿と咲の待つ地点にたどり着く。

すると椿と手を繋いでいた咲が、繭に向かってもう片方の手を差し伸べてきた。



「ママ、もうすぐよ!」



その小さな手のひらに向けて繭の腕が伸びた時、何の前触れもなく咲の体が宙に浮かんだと思ったら、椿の右腕で抱っこされてしまう。

そうして顔が近付いた愛娘に向かって、椿はこう伝えた。



「ごめんね、ここはパパの出番だから」
「パパ……!?」



花嫁姿の繭を誓いの場となる祭壇に導くのは自分でありたい椿の、珍しい自己主張が発動する。

いつもはお菓子も遊ぶ順番も譲ってくれるパパの意外な行動に少し驚く咲だったが、椿がどれほど繭を愛しているのか。

そして繭がどれほど椿を愛しているかを知っているので、ちょっと生意気な口調で許した。



「しょうがないなぁもう、わかったよ〜」
「ありがとう、咲」



咲を納得させる事に成功し、左手を繭の目の前に差し出して微笑んだ椿。

やっと再会した椿にホッとした繭は、それに応えるように右手を添えると、にこりと笑顔を浮かべて一筋の涙をこぼす。



「世界で一番綺麗だよ、繭さん」
「……椿さんこそ……」
「あ、もう泣いちゃったの?」
「はい……」



お互いに笑顔を交わし褒め合うと、新郎新婦として静かに腕を組み祭壇までの段差を共に上っていった。



< 138 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop