一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




そして少し間が空いた時、椿が自分の部屋に存在している事と恥ずかしいパジャマ姿である事に気付いた繭が、慌てふためきながら深々と頭を下げる。



「椿さんっ!何から何まですみませんでした、こんな姿も、本当は見られたくなかったのにそれどころじゃなくて……」
「いや俺こそ勝手に家まできてごめん、でも良かったよ」
「え?」
「繭さんの様子も可愛いパジャマ姿も見れたし、お母さんにもお会いできたから」
「ッ!!」



余裕と意地悪を混ぜ合わせたような椿の、好きな人にだけ向けられる笑顔が、繭の心を鷲掴みにした。

そして瞬時にポッと赤くなった頬を自覚した繭は、すぐに顔を背けて少し早口で返答する。



「は、母は常にあんな感じで周りの人を振り回すんです。だから昔から苦手で……」



親子だからといって、必ず性格が合い仲良しというわけではない。
親子だからこそ、性格が合わなくて何度も衝突する事だってある。

しかし椿の感じた繭の母親は、繭が思っている以上に愛情深く娘思いな気がした。



「血の繋がりはあっても親子は別の人間だから、繭さんが苦手というのも自然な事だよ」
「……はい」
「ただお母さんは……」
「え、何ですか?」
「俺が繭さんを好きだと言ったら凄く嬉しそうだったから、あ〜繭さんのお母さんなんだなぁって思ったよ」
「……っ」



それは幼少の頃から愛情を注がれてこなかったと感じていた繭にとって、意外すぎる様子を聞かされたので言葉を詰まらせる。

娘に好意を抱いている男に対して、嬉しそうにする母親の真意とは一体。


母にしかわからないその気持ちは、自分に置き換えた時の椿の予想を知る事で、繭の心にもすんなりと受け入れられた気がした。



< 76 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop