純・情・愛・人
ストローの口が向こうから寄ってきて、少しずつ水分を喉に染みこませながら、また瞼がくっ付きそうになる。

「いいから寝てろ」

サイドテーブルにタンブラーが置かれた音。締まる扉。遠のく足音。

階段の上り下りがある実家より、フラットなマンションのほうが楽だろうと、今はお父さんがこっちに通う生活。宗ちゃんもわたしの体調を気遣い、短い時間でも頻繁に顔を見せてくれる。

使っていなかった玄関寄りの部屋にソファベッドとワークデスクを持ち込み、ほぼ住み込み状態の広くんは。送り迎えだけじゃなく、料理や掃除を手伝ってくれて、・・・というか、実際にはかなり頼ってしまっていた。

家事を任せるのは考えていなかったし、あくまで護衛的な意味でいてもらうのであって、そこはちゃんと線を引いておくつもりだったのに。

『黙って俺の好きにさせろ』

顔を合わせるなり、ひと言目で言い渡された。

にべもない、いつもの広くんだった。あの日のことは微塵も口に出さず、何もなかったように。

本心がどこにあっても、甥か姪になるこの子の命さえ守ってくれれば構わない。そう思ったら肩から少し力が抜けた。お父さんにだけ覗かせた笑い顔は嘘に見えなかった。・・・それで十分だった。
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