愛はないけれど、エリート外交官に今夜抱かれます~御曹司の激情に溶かされる愛育婚~
碧唯は、ふたりでよく行くダイニングバーの名前をあげた。
「わかった。これから会社を出るから二十分くらいで着くと思う」
碧唯との通話を切り、ソーシャルリンクが入居する三十七階建てのインテリジェンスビルを出た。
ゴールデンウィークが終わり五月中旬になると、風にもわずかに夏の香りが混じる。
草花の芽吹きや新緑の匂いだろうか。アスファルトとビルに囲まれた都会にいても四季の移り変わりを感じられる自分が、ほんの少しだけ誇らしい。
(そんな部分に自分の価値を見出さないと、干物女になりつつあるからつらいんだけどね)
自嘲気味に鼻を鳴らした。
地下鉄に乗り、目的地の最寄り駅へ。人いきれの深い谷から出ると、そこはもうロマンジュの前だ。
石造りの店構えにクラシカルな木製のドア。一見アンバランスな外観に、小さく店名が掲げられている。
重いドアを開けて中に入ると、控えめなライトに照らされたカウンターに碧唯の姿を見つけた。
「いらっしゃいませ」