冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?

ループ0



 夜闇に紛れて森を走る。領主館からは充分離れたと思う。しかし、まだ油断は出来ない。

「奥様、こちらです」

 従者のアランに連れられて、レティシアは着の身着のままで屋敷から逃げ出した。母の形見の指輪だけはしっかり指にはめている。
 不思議なもので、彼とは特別親しかったわけではない。それなのに、命懸けで助けてくれる。それはそれで、レティシアにとってありがたい事ではあるが……。

「どうして? なぜ、あなたはここまでして私を庇ってくれるの?」
 ここでは皆がレティシアを嫌っている。
「ある方から、あなたを守るようにと頼まれました」
「ある方? なぜ?」
「あなたは可哀そうな人だからと」
「私が、可哀そう?」

 確かにレティシアは自分がかわいそうだと思う。その時、前方の茂みから、ブラウン子爵家の私兵が二人飛び出した。そして、後ろには夫トレバーと兵が迫って来る。

「奥様、この隙に!」

 そのとき活路を開こうと飛び出した従者が兵に袈裟懸けに斬られた。レティシアは反射的に彼に駆け寄る。
 傷は深く、助かりそうにもないのが一目でわかり、絶望した。レティシアは形見の指輪をぎゅっと握りしめる。
 
 どうしてこうなったの?

 その後、レティシアは王都近隣にあるバテスチ牢獄に入れられた。夫のトレバーに毒を盛ったという身に覚えのない罪で。

 
♢♢♢

 二か月前、レティシアの夫トレバーは毒を盛られて倒れた。幸い発見が早く二週間もすると元気になり犯人捜しを始めた。
 だが、その三日後にレティシアの部屋から毒物が発見される。身に覚えがない。確かにレティシアは夫を恨んでいた。彼は義姉ミザリーとただならぬ仲になっていたのだから。

「どうして? トレバー様、なぜ私を信じてくださらないの?」
「お前は、僕のことをひどく怒っていたじゃないか」 
「そんなの当たり前じゃない! あなたが、あなたが私を裏切ったんでしょ? ミザリーと浮気をするなんてひどい!」」
 
 こんな状況にあっても彼の裏切りを思い出すと怒りがこみあげてくる。トレバーとは政略結婚だったが、それなりに愛していた。だが、それを彼に伝えたかというと、そんなことはなく。

「お前が、お前が、そんな性格だから疲れるんだよ! いつもいつも自分の事ばかりじゃないか!」
< 1 / 159 >

この作品をシェア

pagetop