冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
「そんな、酷い。だからって私は毒なんて盛っていない」
 

 義姉ミザリーは完璧な淑女だ。初めて会ったときは天使かと思った。ふわふわの金髪に澄んだ薄茶の瞳。いつも友達に囲まれて、魅力的で夜会や茶会では中心人物。

 レティシアはそんな彼女にずっとコンプレックスを感じ続けていた。

「どうせ私は、ミザリーお義姉様のように美しくも賢くもないわよ。皆ミザリーが好きなんでしょ?」
「そんなこと言わないで、レティシア」

 優しいミザリーはそう言って慰めてくれるが、トレバーは次第に冷たくなっていった。

「君の言う通りかもしれないね」
 レティシアの心は抉られるようだった。


 だから、最後に従者が命懸けで助けてくれたのが、不思議でたまらない。申し訳なく思う。この牢獄に入れられて、静かな時を過ごすうちに、自分は誰かに守られるほどの価値もない人間だと気付く。

 最初に彼らを傷つけたのは、ほかならぬ自分だと……。
 だからと言って、無実の罪を擦り付けられるほど恨まれているとは思いもしなかった。


♢♢♢


 朝、カビの生えたパンを運んで来た看守に告げられる。

「今日、お前の刑が執行される」
 
 自分が死ぬだなんて実感がわかない。そんな時、ミザリーが面会にやって来た。
 レティシアは複雑な気分だ。発端は、彼女が夫と恋仲になったことだ。裁判によると、レティシアは夫トレバーとミザリーの浮気を疑い妄想し、殺害する目的で、夫に毒を盛ったとされている。
 妄想などではない。屋敷で二人が逢引きしているのを見たのだ。それに毒など盛っていない。それどころか毒の入手経路すら知らない。 

 
 きっとミザリーのことだ。レティシアの夫との不倫を謝罪に来たのだろう。それともここから出してくれるのだろうか? 死刑だなんて罪が重すぎる。第一トレバーは生きているし、そもそも冤罪なのだから。極限状態にあって、ほんの少し希望の光が見えた。

 ミザリーは侍女を伴って、しずしずとやって来た。レティシアはその侍女を見て驚く。

「ニーナ、来てくれたの?」
 
 彼女はレティシアに親切に仕えてくれた侍女だった。最後に会えたのは嬉しい。彼女には散々世話になっている。レティシアの癇癪にも付き合ってくれた。
それなのに感謝のひとつも伝えていない。レティシアは鉄格子に駆け寄った。

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