冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 五属性持ちの彼の強さに戦慄しつつ、リーンハルトはこんなにやんちゃだったろうかと首をひねりたくなった。だいたい呪文詠唱の速さがおかしい。討伐隊にいたせいだろうか。レティシアは馬車の乗客を逃すので精一杯だった。

「そんな事より、レティシア、けがの方は大丈夫か?」
 彼女は、乗合馬車にいた老女を庇い、腕を少しけがした。

「大したことないわよ。かすり傷じゃない」
「跡が残らないといいな」
 と言ってリーンハルトが眉尻を下げる。

「……まさか私がけがしたから、あんなにムキになってたの?」
「そんなわけないだろ。俺は当然のことをしたまでだ」
 即座にリーンハルトが否定する。
「うん、そうだね」
 勘違いして少し恥ずかしい。レティシアは素直に頷いた。

「……もう不用意な真似をしてケガするなよ」
 二人の間にほんの少し気まずい沈黙が流れた。



 次の日二人は迎えに来たシュミット家の馬車に乗った。レティシアは舗装された道と揺れない馬車のありがたみを感じた。乗合馬車ではよく舌を噛みそうになった。

 一週間の馬車旅を経て王都に戻ったレティシアは久しぶりに風呂にゆっくりと入り生き返った心地がした。討伐隊でいった辺境の地にも湯殿はあったのに国による風習の違いを思い知る。

 それからだいぶ元気を取り戻した両親と家族そろって食事をした。

 ミザリーのことを忘れることは出来ないが、これからの生活がある。今まで二十歳までの人生しか考えてこなかったので、いろいろと迷った。

 その結果、縁談は棚上げにして、教会で再び働くことにした。

 リーンハルトはどうするのかと気をもんでいたが、学園にも王宮にも籍が残っていて二人は以前と変らぬ生活を送ることになった。



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