冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 思わずリーンハルトの上着の袖をつかんだ。

「なんだよ。一人でいるのが怖かったのか。ならなおさら早く帰れ」

 呆れたように彼がレティシアの手を振り払い。
「どなたですか?」

とリーンハルトがドアに向かう。嫌な予感がした。

「待って、リーンハルト

 リーンハルトがガチャリとドアを開けるとトレバーが立っていた。レティシアは驚いて目を見張る。

「トレバー様、こんな時間にどうなさったのです?」
 
 婚約者の姿を見てほっとするよりも、ただ不思議だった。なぜ、こんなところに?

「それは、こちらのセリフだよ。なぜ、こんな時間にお二人で?」

 トレバーが冷ややかな眼差しを向け、リーンハルトに問う。質問の意図が分からずレティシアは思わずリーンハルトを見た。しかし、義弟の表情は硬く。

「別に姉と二人でずっとここにいたわけではありません。姉にもう遅いから帰るよう言いに来ただけです」

「ならば、役目は済んだでしょう? あなたはここから出て行ってください。僕が彼女を送って行きます」

 言葉は丁寧だが、完全に切り口上で怒っているのが伝わってくる。

 いつものトレバーとは違う。最初の人生を思い出し、レティシアは青くなり震えた。
 彼はあの領主館でレティシアを殺そうと兵を放ったのだ。毒など知らないと言ったのに聞き入れられなかった。
 これから彼と結婚するのに、こんなことではだめだと自分を叱咤する。あの時とトレバーと今のトレバーは違うと自分に言い聞かせた。ミザリーが今世で違うように。

「何を誤解なさっているか知らないが、そんなに気分を害しているあなたと姉を二人きりには出来ません」

 リーンハルトがトレバーとは対照的に静かな口調で、きっぱりと言い放つ。義弟はいつだって正しい。彼の忠告を聞いておけばよかった。

「いいの、リーンハルト、私は大丈夫。だから、先に帰ってて。
 トレバー様、ごめんなさい。明日からもっと一緒にいましょう。私ったら、つい夢中になっちゃって。今日は送ってくださるんでしょう?」

 レティシアはトレバーの方へ歩み寄り微笑みかける。

「やはりだ。やはりそうだ……」

 すると日頃礼儀正しいトレバーがリーンハルトを押しのけるようにレティシアのそばに来る。尋常ではない。

「トレバー様? どうなさったの?」
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