貴方と私は秘密の✕✕ 〜地味系女子はハイスペ王子に夜の指南を所望される〜
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 さて辞令はまだ正式に交付されていないものの、こういった話はジワジワと人から人へと広まっていくものである。
 新部署発足は数日後だが、少しずつでも引っ越しし始めようと、机の回りのお気に入りの私物が入った紙袋を手に給湯室の前を通りかかると、誰かの好奇心丸出しといった弾んだ声が聞こえてきた。

「えっ?!じゃあ本当は神山さんが新部署に移動するはずだったの?」

 これはどういうことなのか。新部署に移動するのは自分だけではなく、神山透もだというのだろうか?話の到着地点が全く掴めないが、なんとも気になるその話題に洋子はつい立ち止まると、聞き耳を立ててみることにするのだった。

「そう。ここだけの話だけどね、神山さんが部長に「新部署に移動したい」って、直々に願い出たらしいわよ」
「でも、結局移動になったのは洋子じゃない?」
「そこはアレよ。1課としてはわざわざ新部署なんかに優秀な人材を放出したくないじゃない?だから神山さんを引き止める代わりに洋子を出したってところなんでしょ」
「あー。あの二人、別れたって言ってたよね?だから?」
「別れたどころか、付き合ってもいなかったとかって話じゃない?」
「うっそ!ほんとに?だったら今まで洋子がしてた話って、なんだったの?」
「えーそりゃ、ねえ?……空想?妄想?」
「……やっば!それ、イタすぎでしょ!」
「じゃあ神山さんが移動したいっていったのも、洋子の妄執から逃げる為ってこと?うっわー!怖!!神山さん、ほんと気の毒すぎる!」
 
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