タイムスリップ・キス
出会った時から好きでした。


たぶんそれは一目惚れ。


目が合った瞬間私の心は奪われていたの…


あなたがいればそれでよかったのに、どうして私じゃないの?


私は永遠にあなたのものよ…


「山田!悲しい曲ばっか歌わないで!!」

目の前でずっとマイク片手に入り込んで熱唱してる、まるでオンステージのように立ち上がって気持ちよさそうに。

しかもこれ見よがしに悲しい片想いとかフラれたとかそんな感じの歌詞ばっかり聞かされてる。

「失恋した時には泣けるぐらい悲しい曲の方がいいだろ!」

「“永遠にあなたのもの”とか重い!!」

上手いのが余計に腹立った。

山田に連れられるようにやって来たカラオケ、店内中どこもかしもこ剥げててボロッとしてるけどここが1番近いからだいたいカラオケと言えばみんなここに来る。

安いし、歌うだけならそんな困らないし。

所詮高校生だから。

「椎葉、次何歌う?」

もう満足したのか山田がマイクを置いて隣に座った。

「ん~、どうしよっかなー」

デンモクをピコピコしてただけで何も入れてなかった。
何も思いつかなくてスマホを開いて、普段何聞いてたかを探した。

「あ、椎葉それ新しいケータイ?変えたの?」

「うん、1番新しいやつ!お年玉で買ったの!」

「いいな~、俺も新しいの欲しいな~」

スマホを開いてみたけど、特に歌えそうな曲が見当たらなかった。
流し聞きしちゃってるもんな、サビしかわかんないかも。

「あ、これは?」

私の持っていたタッチペンをサッと横から持っていき、勝手にピッと押した。

流行りの可愛いラブソングだった。

「え、それあんまりわかんないんだけど」

「テキトーでいいよ」

「え~、歌えるかな」

うる覚えだったけど、テキトーに歌ってって言った山田がテキトーに合いの手入れるからそっちのが気になっちゃって結局全然歌えなかった。

凹んでたけどその時だけは笑ってて、ちょっとだけ楽しかった。

声出して笑っちゃったから、コップに入ったオレンジジュースも空っぽになるぐらいだった。

「ドリンクバー取りに行こうぜ」

「うん、行く!喉渇いた!山田が変なこと言うから」

「ナイスコール&レスポンスだったろ!」

「ソイヤッサ!なんてコール&レスポンスいらないよ!」

思い出してはくすくす笑った。

10代アイドルのキュンとするラブソングにそんなの絶対求めてない。

考えること本当くだらないんだから。
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