タイムスリップ・キス
「伊織先輩から告白して冬休み前から付き合ってたんだって!冬休み中もずっと伊織先輩のこと想ってた私って何なの!?毎日伊織先輩のこと考えてたのに…!」

1年2組の教室で、机に顔を伏せた状態でわーわーと泣きわめく私の前に座るクラスメイトAが蔑んだ目で見てくる。

半ばあきれ顔でハァっとため息まで聞こえた。

「…うるさい」

「!?」

この状況の第一声にビックリして思わず顔を上げた。

信じられない!
目の前で女の子が傷付てるのに!

「山田!!!他に言うことないの!?あるでしょ!もっと!慰めの言葉の数々!!」

「…“次の恋があるよ!”」

「そんな少女漫画の主人公の友達みたいなセリフいらない~~~!」

「椎葉が言えって言ったんだろうが!」

両手で顔を覆って俯いた。

泣きたい、帰りたい、やる気もない。

彼女がいるって想定をしなかったわけじゃない。
でもやっぱりそんな話聞きたくなかったし、何度も伊織先輩と話したけど…

怖くて聞けなかった。

ずっと伊織先輩と付き合えることを夢見てきたから。

「新しく出来るプラネタリウム一緒に見に行くの夢だったのに…」

「あの永遠に出来ないプラネタリウムだろ?噂ばっかでどーせできねぇからよかったじゃねぇか」

あ、ちなみに目の前にいるスカした男は山田瞬(やまだしゅん)

155センチの私と5センチしか変わらないチビッ子。
中学からの友達で高校も一緒でさらにクラスまで一緒とは思わなかったけど、私的モブ人種なので気にしないでほしい。

ついでにモソモソと何か食べている。

「ちょっ、それ私のじゃん!」

「わめいてるからいらないのかと思って、2つあったし」

「わめいてもいるでしょ!食べたくて買って来たんだから!」

「これ何?めちゃくちゃ美味いな」

「ティラミスフィナンシェ!伊織先輩と食べようと思って買ったの!」

一緒に食べるも何も渡すことさえ出来なかったけど。

出来るだけ多くのことを2人で一緒にを楽しみたかったから。

そんな妄想ばかりしてた。

今日から全部やろう!って意気込んでたのに。

意気込むだけで終わちゃった。

「あ、漫画貸してやろうか?“筋肉番長”!これすげぇおもしろいの、出たばっかなんだけど!」

「ムキムキしか出て来ない漫画なんて興味ないよ!」

もう一度机に顔を伏せた。
あまりに勢いよく伏せたからゴンッて低い音が鳴った。

それに山田がはぁ~っと長い息を吐いた。

「…しょーがねぇなぁ、じゃあカラオケだ!」

「………。」

「失恋祝いに奢ってやろう!」

「祝わないでよ!悲しんで!!」
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