私と貴方の秘密の一年間

「まぁ、そうだな。このような空間を作れるのは、彼女の特権とでも思っとけ。ただの生徒にここまでやらねぇよ」
「っ!! も、もう…………!! そうやって、ピンポイントに私が欲しい言葉をかけてくれるなんて。やっぱり、先生はただの生徒にも同じ事してそうです」
「なんでだよ」
「だって、昨日まではただの生徒だったんですよ。今日いきなり先生が、ここまで観察眼が鋭くなるなんてありえません」
「…………それは、まぁ…………」

 ん? 何か言いたげにしてる。何だろう

「………気にするな。ひとまず、お前の感情はなんも醜くない。安心しろ」
「え、でも…………。こんな感情、先生は迷惑でしかないじゃないですか。それに、我慢したくても、出来なくて。本当に、ごめんなさい…………」
「俺は別に迷惑じゃねぇよ」
「っ、でも! ──っ!?」

 先生がまた顔を近づかせてきた、煙草はいつの間にか手に握られている。煙の臭いが鼻に入る、それでも先生の漆黒の瞳の方に意識が行ってしまう。吸い込まれそうになる瞳、膝に置かれている手が握られた。

「言ってんだろ、お前のその感情は醜くない。昔、好きすぎるあまり、相手と一緒に屋上から落ちてしまった人がいるみたいだが。お前はそんなことしないだろ?」
「――――それって…………」

 細められる先生の目、上がっている口角。
 どういう気持ちで言っているんだろうか、何を考えて言っているのだろうか。

「わっ!!」
「不安がるな、今の俺は、お前のモノだ。お前の、モノなんだよ」

 握った私の手を、先生は自身の胸に押し当てる。

 あぁ、やっぱり、先生はすごい。ここまで早く、この感情が落ち着くなんて、思わなかった。

「さて、お前が立ち直ったところで、俺は仕事に戻っ――――」
「え、どうしたんですか? あ」

 机に置いてあった名簿がない。それで、開けられた窓。風が結構強いみたい、床に何枚か紙が落ちてる。

 あ、先生が窓に風のごとき速さで向かった。体乗り出しているけど、あれは自殺じゃないんだよね、違うんだよね?

「…………あぁ。このまま落ちれば、俺の失態は誰にも責められないだろう」
「自殺じゃないんですよね!? 顔を青くして不穏な言葉を吐かないでください!!!!! ちょ、足を窓にかけないでぇぇぇえええ!!!」
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