俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 おくれ毛が一本もなくきちんとまとめられたお団子と、崩れることなく結ばれたスカーフが彼女のトレードマークだ。

少し釣り目だが、凛とした雰囲気のある美人だ。仕事は性格で、自分にも他人にも厳しい頼りがいのあるリーダー。

 御杖部長が全体を見て、課長が実務を取り仕切っている。

「これは何かしら?」

「あの……これとは……」

 正直いろいろとやらかしすぎていて、どのことを言われているのかわからない。

「この電話メモよ」

 そこは私が受けた受付電話メモが残されている。時間、先方の名前、折り返し先。不備はないように思えた。

「これでは、このお客様がどのようなお客様かわからないわ。これまでまったくうちにお見えになったことがないのか、フェアに参加したことがあるのか、誰の紹介なのか。連絡がつきやすい時間帯や、曜日なんかも聞くべきよ」

「はい」

「この業界、少ないお客様をどうやって確保するのかにかかっているの。少しのチャンスも無駄にできないのよ。そのためには最初の接触も大切にしないといけないの。わかるわね」

 たしかにそうだ。カフェやレストランのようにリーピートはあり得ない。むしろそんなことは困る。

ここで式を挙げた人には末永く幸せであってほしい。だからこそ、そのひとりのお客様を逃すわけにはいかないのだ。

「認識が甘かったです。すみませんでした」

「まあ、仕方ないわね。前職とは勝手が違うもの」

 話は終わったと、天川さんが視線をはずしたので自分の席に戻る。

自己嫌悪からのため息をつきそうになったがぐっと抑え込み席に着いた瞬間「あ、そうだ」と天川さんが声を上げる。

「テーブルのレイアウト、すごくよくなっていたわ。ありがとう、飛鳥さん」

「はい!よかったです」

 今朝、ずっと気になっていた打ち合わせに使うテーブルの位置を、許可を得て変えてみたのだ。

 動きやすさや導線を考えるのは、前職が役に立った。

 さすが天川さんだな。間違いの指摘だけでなく、しっかり成果も認めてくれる。私なんか褒めるところがないだろう、それでも何かしらいいところをみつけてもらえる。

 私はそれ、できていたかな。
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