俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 ある程度経験を重ね、後輩ができ上に立つようになっていた。日々の仕事に追われて周りが見えていなかった。

 御杖部長に偉そうに言ったけれど、教えを乞う立場になってみて自分を顧みることができた。決して自ら希望して出向したわけではなかったけれど、一ヵ月働いてみて、初心に戻り仕事に打ち込める幸せを感じていた。

 とはいえ、ミスはミス。痛いなぁ~。

 いくら褒められたとはいえ、圧倒的に足を引っ張っているのには変わりない。

 落ち込んでいる暇はない。まずは業務報告をあげなくてはいけない。パソコンとにらめっこしていると、隣の席から小さなチョコレートの包み紙が差し出された。

「どうぞ」

「ありがとう」

 隣の席に座っているのは、同じ天川チームの香芝冬乃(かしばふゆの)。

 二歳年下の先輩だ。肩までのふわふわとした柔らかい色素の薄い髪に、大きな二重の瞳。声も高く思わず女の私でも庇護欲がそそられる。そんな彼女は可愛いものが好きだというだけあって、挙式や披露宴でのアイデアには天川さんも一目おいていた。

普段はかわいらしいが、仕事となると妥協を許さない姿勢はかっこいい。

「これ新作のチョコなんですけど、すごくおいしくて。幸せおすそ分けです」

 彼女もまた突然やってきた私を快く迎えてくれている。ため息が漏れそうなときは今日みたいに、遠まわしに励ましてくれることも多い。

「ありがとうございます。当分補給してがんばります」

「ふふふ、あんまりがんばりすぎないでくださいね。眉間皺できてます」

「はい」

 そんなに怖い顔をしていたのだろうか。チョコレートを口に放り込んで、肩の力を抜いて仕事を再開した。

 あちこちから「お先に失礼します」という声が聞こえてくる。パソコンに向かいながらそれらに返事をしていると、気が付けば最後のひとりになっていた。

「なんだ、まだ残っていたのか」

 入口から声が聞こえて顔を上げる。

「御杖部長、お疲れ様です」

「なにやってるんだ」

 パソコンの画面をのぞき込まれる。

「電話メモ? なんだこの社会人一年目がするみたいなことやっているのか?」

 呆れたような声で言われて、恥ずかしくなる。しかしこれが自分の弱点なのだから仕方ない。

「私、接客で現場が長くてあまり事務の経験がないんです。やっと本社企画に異動になったとたん、アレだったんで……」

「ああ、そうだったな」
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