【受賞】幼妻は生真面目夫から愛されたい!
 そして、やっとその心当たりに気が付いた。
 大火事の十数日前、オリビアは十六歳になった。未成年ではあるが、結婚のできる年齢だ。大人と子供の狭間の年齢。
 そのときアトロは、オリビアに一枚の紙きれを手渡した。
『ここにサインしておいてくれないか?』
 父親からの頼みということもあり、オリビアは言われたまま、何の疑いもせずに紙きれにサインをした。
 あれが結婚誓約書であったのかと、クラークにその写しを見せられて理解した。
 そしてクラークは口にする。
『俺は、君と家のことを団長から頼まれた』
 つまり、クラークはオリビアのことを好きで結婚したわけではなく、オリビアの父親であり騎士団長を務めていたアトロに頼まれたから結婚をしたと、そう言いたいようであった。
 結婚誓約書が受理された日付を確認すると、父親が火事に飲まれた次の日であったことにも驚いた。もしかしたら、病院のベッドの上で、アトロはクラークに頼んだのかもしれない。
 喪に服す期間もあり、二人は小さな結婚式をその半年後に挙げた。
 オリビアは、「結婚式はしなくてもいい」と口にしたが、アトロが望んでいたことであるとクラークに聞かされ、純白のウェディングドレスを着た。
 見せたい人は誰もいない。父親もいない。母親もいない。しいて言うならば夫となる人。だが彼は、オリビアのウェディングドレス姿を見ても、口元を綻ばすだけであった。
 そしてクラークはアトロの部下でもあった。王国騎士団の副団長を務めていた。だが、団長の座が空いたため、その地位に就く。
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