【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 1

両親への挨拶

「結果的に、メディア映えはするらしいけどね。俺に憧れてくれている若い男の子が、似たような色のカラコンをしているとかも、ジャフォットでたまに見る」

 ジャフォットというのは、写真や動画をメインに投稿するSNSだ。
 香澄もアカウントを持っているが、フォローしている友人たちの中にも、ハッシュタグをつけて〝CEコーデ〟とChief Everyの愛用をアピールしている人もいる。
 ファッション的に幅が広く、老若男女問わず着られるChief Everyは、若者だけではなく全年齢、どの体型にも人気があった。

「みつ……佑さんも、SNSを見たりするんですね。有名すぎる人って、あまりそういうのをしないのかと思っていました」

 佑はもう香澄に密着しておらず、洗面所の少し離れた所に立っている。

「公式アカウントは担当の者に任せてるけど、一応プライベートのアカウントはあるよ。香澄もアカウント持っているなら、フォローしたいな」

「い、いや……。私、ご飯とかしか写さないですし」

 しかも麻衣と食べ歩きしている、ラーメンや回転寿司などなので、お洒落さの欠片もない。

「何でもいいから教えてよ。無理強いはしないけど、香澄の事を少しでも知りたい」

 微笑んだあと、佑は「戻ろうか」とリビングのほうに向かう。

(……佑さんにキスしちゃった)

 頬とは言え、あの〝世界の御劔〟にキスをしてしまった。
 今さらながら罪悪感というか、やってしまった感が湧き出て堪らない。

「さっきの話題に戻るけど、ご両親に挨拶できるよう、確認してもらえるか? 今日が無理ならまた出直す」

「あ、はい。……じゃあ、確認するだけしてみます」

 香澄の父は地方公務員で、母は専業主婦だ。

 今どき専業主婦と言われると優雅に感じられるが、家庭の経済力は普通だと思っている。
 父は真面目にコツコツ働いて昇進し、母はその稼ぎを上手くやりくりして家計を守っている。
 父は無理のない範囲で投資などもしているらしく、いざという時の蓄えはあるようだ。

 とはいえ、赤松家の家訓は昔から「自分の事は自分で」なので、香澄も自立するようになってから、浪費はせず堅実に貯金している。

 実家は同じ札幌市内の西区で、香澄は中央区に一人暮らししている。
 何かあれば車でサッと来られる距離なので、特に緊急の用事がなければ連絡していない。

「ちょっと……、電話するので……」

 香澄はスマホを取りだし、佑にペコリと頭を下げてから、広いスイートルームの端に立って自宅の電話番号をタップした。

 コール音が鳴ったあと、『はい、香澄?』と母が出た。
 自宅の電話は、電話会社との契約により掛けてきた番号が知らされるので、着信の時点で相手が香澄だと分かっている。

(あぁ……。いたか……)

 少しガクッと項垂れ、香澄は覚悟を決めて口を開く。

「今日、これから予定ある?」

『特にないけど。買い物は午前中に行ったし、午後は韓ドラ見てゆっくりしようかと思ってるよ』

「お父さんは?」

『いるけど?』

 避けられない運命に、香澄は溜め息をつく。

『何? どうしたの? 来るなら迎えに行くけど』

 香澄は大学生時代に免許を取るタイミングを失ってしまったので、二十七歳になった現在も免許を持っていない。
 よって、日々の移動は公共機関、遠出する時は誰かが運転する車に乗っていた。

「えーと……。挨拶したいっていう方がいるんだけど」

 そう言った途端、電話の向こうの母の空気が変わったのが分かった。

『お付き合いしている人!?』

「ち、ちが……、えっと……えーと。話すと長くなるんだけど、まだ付き合ってない! 挨拶っていうのも、お母さんが想像しているようなのじゃないから」

『何だ……。何時くらいに来るの? もし何だったら、どこかでご飯食べるのもいいんじゃない?』

 言われて腕時計を確認すると、時刻は昼前だ。

「えっと……、ご飯食べるなら、なるべく人目につかない所がいいんだけど。個室とか」

『そんなに人に見られたくないの!?』

 呆れたような声を出され、上手く説明できない香澄は「うー」と唸る。

『じゃあ、あんた自分で良さそうな店を手配して? お母さんたち、用意ができたら向かうから』

「分かった。メッセージするね」

 そこで一旦電話を切り、香澄は溜め息をつく。

「食事に誘ってもらえたと思っていいのかな?」

 佑が話しかけて来て、香澄はドキッとする。

「こ、これから個室のあるお店を探します」

 佑に告げてから香澄は懸命にスマホを操作し、実家から近そうな店を探す。

「そういう店なら、駅付近の方があるんじゃないか?」

 言われてチラッと佑を見ると、彼はソファに座って同じようにスマホを操作している。

「ちょ、ちょっと待ってください。どこまで出られるか聞いてみます」

 慌てて香澄は母に『どこら辺まで出てこられる?』とメッセージを送る。

『どうせ車で行くから、中央区でもいいよ。駐車場がある店がいいけど』

 ポン、とすぐに返事があり、香澄はその旨を告げる。

「和食の方が落ち着いて食べられるかな。このホテルまで来て頂けるなら、和食レストランの個室をなんとか頼めると思うけど」

「え? で、でも」

 一等地にあるホテルのレストランになるとは、さすがに両親も考えていないだろう。

「会計はもちろん俺が持つよ。駐車料金も、食事を取れば数時間は無料になるだろうし」

「ですが……」

 なおも言いよどむ香澄を見て、立ち上がった佑は彼女の元まで歩き、ポンポンと頭を撫でてくる。

「俺が我が儘を言って急にご挨拶をしたいと言ったから、費用は俺が持つ。それは道理だと思うんだ」

「……分かりました。じゃあ、今回は……」

 納得した旨を伝えると、佑は「ありがとう」と微笑み、部屋の電話を取ってフロアコンシェルジュと話し出した。
 少し経ってから「十三時に個室を予約したよ」と言ってきたので、急いでその旨を母に伝える。
 予想通り『ホテルのレストランで!?』と驚いていたが、何だかんだで急いで用意して来てくれる事になった。

(私、こんな服装で良かったのかな)

 いまできる精一杯のお洒落をしたとは言え、普段ホテルのレストランになど行かないので、場に合っているか不安だ。

「時間まで、もう少しゆっくりしていようか」

「はい……」

(なるようにしかならないんだ)

 内心溜め息をつき、香澄はまたソファに座るとフロアコンシェルジュが置いていったポットから、新しい紅茶を注いだ。




 予約時間の十分前には、香澄は佑と一緒にホテル内にある和食レストランに向かっていた。

 和食と言っても、出しているものは会席料理だ。
 香澄も麻衣とたまにコース料理のレストランにも行くが、あの上品さは緊張する。

 大きな窓のある個室まで案内され、四人用に用意されているテーブルの下座に佑は座った。
 自分はこれから佑と一緒に、両親に東京に行きたいと伝える立場なので、香澄も彼の隣に座る。

 ドリンクを先に持ってくるか尋ねられたが、佑は香澄の両親が来るまでいいと遠慮する。
 その代わりに、温かいお茶が出された。

 しばらく待っていると個室のドアがノックされる。
 とっさに香澄が立ち上がったのと、引き戸が開かれて両親が入ってくるのが同時だった。

「香澄……えぇっ!?」

 個室に入るなり母が声を上げ、父も固まっている。

「初めまして。御劔佑と申します。今日は突然お呼び立てしてしまい、申し訳ございません。お忙しいところお運び頂き、感謝申し上げます」

 後ろを見ると、佑はすでに立ち上がっている。
 そして香澄の両親に近付き、丁寧なお辞儀をした。

「嘘でしょ……? 本物?」

「お、お母さん、取りあえず入って……」

 香澄に言われ、両親は個室に入りコートを脱ぐ。

 席についてからドリンクオーダーを尋ねられたが、流石に両親はアルコールは頼まずウーロン茶を頼んでいた。
 旬の食材を使った料理が運ばれてくるまでの間、佑は二人に名刺を渡す。

「あのね、御劔さんは私が勤めている店にお客様として来てくださったの」

 まず自分から説明しないとと思い、香澄は簡単に佑と出会った経緯を話した。

 自分がバニーガールの格好をしたのはさすがに省いたが、客からセクハラを受けて佑が助けてくれた流れなどを伝える。
 そのあとの彼が自分を気に入ってくれた点について、どうしたものかと思っていると、代わりに佑が説明し始めた。

「私は赤松さん……、失礼、全員『赤松さん』ですので、香澄さんと呼ばせて頂きます。香澄さんの接客や、真摯に客に向き合おうとする姿に感銘を受けました。同時に一人の男、服を作る者として、女性としての彼女に運命的なものを感じました」

 あまりにストレートに言うので、香澄は佑の隣で赤面する。
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