【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 1

佑との初めてのキス

 佑は香澄の足元に跪いたまま、苦笑いしている。

「元は一般人だと言い張っても、今はこうやって感覚の差が出てしまっているのは事実だ。困らせてしまってすまない」

「……いえ。私こそ、言い過ぎてしまってすみません」

 最初は「もう無理」と思っていたが、こうして歩み寄ってくれたなら、香澄も解決策を一緒に考えられるのではと思い始める。

「そ、それに……。その、立ってください。そんな風に跪かれたら……」

 とうとう気まずくて香澄はスツールから下り、佑と同じ目線になるようしゃがむ。

「誠意を表すには、まず姿勢だと思って」

「う、うぅ……」

「提案なんだけど、今日買ってしまった物は返せないから、ひとまず受け取るという形でいいだろうか?」

 改めて言われ、確かにそれもそうだと思った。

 クーリングオフなどもあるが、佑は外商顧客で大口の買い物をするのは常だと思われている。
 それが「やっぱり返品します」だなんて、〝世界の御劔〟の体面が保てない。

 佑の見栄を守るというより、香澄もあれだけの買い物をしておいてキャンセル……はないと思う。
 だから不承不承頷いた。

「分かりました。今回のお買い物については、すべて受け取ります。ですが、返しきれないと思いますが、何らかの形でお金を返していきたいです」

 佑と一緒になって床に座り込み、香澄も提案する。

「うーん……。正直なところ、好きな女性に買った物の金を返されるというのは、男として情けない限りなんだけど」

「でも……」

「こう言うと、成金の嫌みみたいだけど、あまり大した額じゃない買い物なんだ」

「……うぅ……」

 それでも、と香澄の心は抵抗する。

「逆に聞くけど、香澄が俺の誕生日とかにプレゼントをしてくれたとして、『金を返す』って言われたらどう感じる?」

「……嫌、です……。素直に受け取ってほしい。……返してもらうために、プレゼントするんじゃないですし」

「うん。……それじゃあ、今回の、いいかな?」

 床の上で胡座をかいた佑が、香澄の顔を覗き込み困ったように笑う。

(ずるい……。顔のいい美形にそう言われて、断れる訳ないのに……)

「……今回だけですよ?」

「ありがとう。〝次〟からは、買う時に相談するから」

「~~~~当分〝次〟はなくていいです」

「相談するよ」

 ここで「分かった」と言わないところが怪しい。
 結局押し負けてしまい、香澄は「はぁ……」と大きな溜め息をついて背中を丸める。

「……でも、何かさせてくださいね? 何でもされっぱなしのお姫様は嫌ですから」

 上目遣いで佑を睨んだ時、彼がにっこり笑った。

(う……っ。この笑い方は危険な奴……!)

 すでに学んでいる香澄は、ギクリとした。

「一ついい方法があるんだけど」

「うぅー…………。……な、なんでしょう…………?」

 身に覚えはないが、まるで借金の取り立て人にいけない返済方法を迫られているように感じた。

「俺は香澄ともっと距離感を詰めたいと思っている。だから……」

「!」

 スッと佑の手が動き、香澄の手を恋人繋ぎで繋いできた。

「もう少し、キスとかボディタッチとか、あってもいいと思うんだ。体で返すって言ったら言い方が悪いけど、……そういう方向はどう?」

「う、うぅ~~~~……」

 言われて、確かに佑は自分と付き合いたいと言っていたのを思い出す。
 この豪邸に住まわせて職を与え、高額な買い物をするのに対し、素人の秘書が働くだけでは割に合わない。
 こちらは新人育成をしてもらう身なのだ。

「勿論、生理的に無理というなら、無理強いはしないけど」

「そんな訳……ないじゃないですか」

(こっちは必死に、異性として意識しないように、性的に見ないように心がけてるのに)

 香澄は性格的に、何かに嵌まったらそれだけになりがちだ。
 好きなアイスクリームだって、いつもチョコミントばかり食べてしまう。
 コンビニに行ってもいつも同じシーチキンマヨネーズのおにぎり、ハムサンドなど、パターンが決まっている。

 男性も同じだ。
 別れたあとこそ元彼があまりいい彼氏でない事に気付いたが、付き合っていた当時は彼しか見えなかった。

 こんなに魅力的な佑が側にいて、惚れないようにするのが現時点では精一杯だ。
 心の中で必死に突っ込みを入れ、彼のマイナス点に目を付けて、ズブズブに嵌まってしまわないようにしているだけだ。

 あと一つ〝何か〟が変わってしまえば、彼の言う言葉すべて、する行動すべてに、目をハートにしてしまう自分が想像できる。
 彼がする事に逆らわず、諾々と愛されて押し流されてしまう。

(だから……。好きにならないようにブレーキ掛けてるのに……)

 眉を寄せ、赤面した香澄を、佑はジッと見つめている。
 やがて握っていた手の甲に唇を落とした。

 ピクッと反応した香澄に、彼はまた困ったように笑いかけた。

「俺はそんなに魅力がない? 恋愛対象に見られない? 歩み寄らないと、二人とも進めない」

「~~~~…………っ」

「だって」という言葉を、香澄は必死に呑み込んだ。
 昨晩、「でもでもだって」を卒業すると決めたばかりだ。

(……ちょっとだけ……)

 勇気を振り絞り、香澄は膝立ちになるとフワッと佑をハグした。
 彼はそんな香澄を受け入れ、膝の上に座らせる。
 心臓がバクバク鳴り、久しぶりに男性と触れ合うので緊張して堪らない。

「香澄、ありがとう」

 耳元で佑の声が聞こえ、香澄はビクッと肩を跳ねさせる。

「す……少し、ずつ」

 そう告げる声も上ずっている。

「ん、分かってる」

 佑はトントンと香澄の背中をさすり、そのあと少しずつ色んな所に触れてきた。
 背中を撫でていた手は少しずつ腰に下がり、やがてお尻に触れる。

 どうにもならずに緊張し、香澄は気が付けば佑のTシャツの胸元を両手で掴んでいた。
 伸ばしてしまうという事も頭から抜け、必死に彼に縋り付く。
 元彼と付き合っていたのは二十歳そこそこだったので、実に七年ぶりに男性と密接な関係になった。

(わぁっ……! やばい、やばい! すっごい照れる……!)

 もう佑の顔も見られないと思っているのに、彼が少し体を引き、香澄の頬に手を添えてきた。

「キス、していい?」

「~~~~ぅ、…………ううぅ、……う、…………はい」

 どうしたらいいか分からないまま頷くと、佑がフワッと微笑んだ。

(綺麗な目の色だな)

 ヘーゼルの瞳に見入っていると、彼が顔を傾けキスをしてきた。

(ん、わ……)

 柔らかい唇が押し当てられ、とっさに息を止める。
 何回か唇がついばまれ、そんな風に優しいキスをされた事のない香澄の体に、ブルッと震えが走った。

(何、これ……)

 体の深部で、香澄の知らない〝何か〟が目覚めようとしている。

「……っぁ……っ」

 佑の手が香澄のTシャツの裾から入り込み、キャミソールもスキニーから引きずり出して直接素肌に触ってきた。
 直に触れられると、彼の掌は熱い。
 大事そうに背中を撫でられ、時に指で背筋のくぼみをツ……となぞられると、腰が限界まで反ってしまった。

 感じてしまう自分を制御できず、香澄は必死に呼吸しようとする。
 けれど唇の内側を舐められ、また体が勝手に震えた。
 間違いなく、ずっと誰とも縁の無かった下腹が、女の本能のままにキュンキュンと疼いている。

(駄目……っ、だめ、キスだけでこんな……っ)

 呼吸が荒くなり、体がどんどん熱くなってゆく。
 懸命に息を吸えば、佑が纏っている官能的な香りを思いきり吸い込んでしまう。
 放っておけばジクジクと下腹部が疼いてしまい、香澄は無意識に腰を揺らす。

 その時ヌルッと肉厚な舌が入り込んできて、香澄の口内を舐め回した。

(あ、……あ、ぁ……、なに、これ……っ、この、……キス……っ)

 ――こんなキス知らない。

 元彼とのそれが児戯に等しいと思ってしまうほど、佑のキスは丁寧だった。

 唇を愛している間も、彼の手は直接香澄の背中を愛撫し、指で背筋や肩甲骨の際辺りをなぞってくる。
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