夏の音を聴かせて
「もう……昔のことです。それに、私、画家のなりそこないなんですよ。どうしても、画家になりたくて、結婚願望の強かった来斗に別れを告げたんです……大学卒業後、二年間フリーの画家として、海外を拠点に、あらゆるコンテストに出したり、売り込みしたり、路上で絵を描いてポストカードを販売したりしてたんですけど、結局鳴かず飛ばずで、三年前、諦めて日本に帰ってきたんです」
「もしかして……来斗君が、ずっと大事にしてる葉書、南さんが?」
「え?葉書ですか?」
和穂は、立ち上がると、来斗のデスクの一番下の引き出しをそっと開けた。そして、写真立てに裏板を外し、写真を取り出すと、私に手渡した。
「あ……」
五年前、来斗に別れを告げ、海外に渡った私が、一度だけ、来斗に宛てて出した葉書だ。
表には、来斗と初めて出会った、青い海が、葉書の中に、小さく鮮やかに切り取られている。
「南さんなのね。その葉書、梓ちゃんと結婚するまで、ずっと、写真立てに入れて、デスクに飾っていたのよ」
目に涙の膜が張る。気を緩めたら溢してしまいそうだ。
「来斗が、ずっと……これを」
慣れない異国の地で、悪戦苦闘しながらも、夢を追いかけていた私は、日々充実していたが、来斗の居ない初めての夏、どうしても来斗に会いたくて、その想いを断ち切るためにこの葉書を描いた。
そっと裏返せば、短く一行だけ、私の直筆の文字が並んでいる。
『もう二度と来斗に恋はしない。ありがとう』
そう書かれている。
「えぇ、フられちゃったけど彼女の夢をいつまでも応援したいって。自分は、いつまでも彼女の一番のファンだからって」
ゆっくりと落下した小さな水玉模様は、葉書の上に弾けて染み込んでいく。
和穂が、私の背中をそっと摩ってくれる。
「私、いつも間違えてしまうんです。夢よりも……来斗を選んでいたらっていつもどこかで思ってたんです。本当は……私も来斗を忘れた事なかった」
「その話……来斗君にしたことある?」
私は、溢れる涙をそのままに、小さく首を振った。
「もうすぐ、来斗君帰ってくるから。最後に話したらどう?」
私は、無理やり涙を引っ込めると和穂に笑ってみせた。
「もう、終わったことなので。来斗には、ご家族とお幸せにと、お伝えください。陸奥さんも本当に三ヶ月間有難う御座いました」
「南さん、本当にいいの?」
「はい。その代わり、この葉書貰って帰ります。それだけ来斗に伝えてください」
私は、そっと葉書を鞄に仕舞うと事務所を後にした。
「もしかして……来斗君が、ずっと大事にしてる葉書、南さんが?」
「え?葉書ですか?」
和穂は、立ち上がると、来斗のデスクの一番下の引き出しをそっと開けた。そして、写真立てに裏板を外し、写真を取り出すと、私に手渡した。
「あ……」
五年前、来斗に別れを告げ、海外に渡った私が、一度だけ、来斗に宛てて出した葉書だ。
表には、来斗と初めて出会った、青い海が、葉書の中に、小さく鮮やかに切り取られている。
「南さんなのね。その葉書、梓ちゃんと結婚するまで、ずっと、写真立てに入れて、デスクに飾っていたのよ」
目に涙の膜が張る。気を緩めたら溢してしまいそうだ。
「来斗が、ずっと……これを」
慣れない異国の地で、悪戦苦闘しながらも、夢を追いかけていた私は、日々充実していたが、来斗の居ない初めての夏、どうしても来斗に会いたくて、その想いを断ち切るためにこの葉書を描いた。
そっと裏返せば、短く一行だけ、私の直筆の文字が並んでいる。
『もう二度と来斗に恋はしない。ありがとう』
そう書かれている。
「えぇ、フられちゃったけど彼女の夢をいつまでも応援したいって。自分は、いつまでも彼女の一番のファンだからって」
ゆっくりと落下した小さな水玉模様は、葉書の上に弾けて染み込んでいく。
和穂が、私の背中をそっと摩ってくれる。
「私、いつも間違えてしまうんです。夢よりも……来斗を選んでいたらっていつもどこかで思ってたんです。本当は……私も来斗を忘れた事なかった」
「その話……来斗君にしたことある?」
私は、溢れる涙をそのままに、小さく首を振った。
「もうすぐ、来斗君帰ってくるから。最後に話したらどう?」
私は、無理やり涙を引っ込めると和穂に笑ってみせた。
「もう、終わったことなので。来斗には、ご家族とお幸せにと、お伝えください。陸奥さんも本当に三ヶ月間有難う御座いました」
「南さん、本当にいいの?」
「はい。その代わり、この葉書貰って帰ります。それだけ来斗に伝えてください」
私は、そっと葉書を鞄に仕舞うと事務所を後にした。