断る――――前にもそう言ったはずだ
「君には婚約者が居ないのだろう?」


 けれど、エルネストは問い掛けには答えぬまま、モニカに対して質問を重ねる。少々面食らいつつも、モニカは静かに頷いた。


「はい。結婚については、女官として仕事をした後にと考えております」


 モニカにだって一応、公爵令嬢としての矜持がある。エルネストは彼女を馬鹿にするつもりはないのかも知れないが、縁談が全く舞い込まないわけではないのだと主張したかった。


「その考えは今後、撤回して貰う必要があるだろう」

「え?」

(どうして?)


 困惑するモニカを前に、エルネストはキュッと唇を引き結ぶ。
 それから彼は、モニカに向かって徐に手を差し出した。


「モニカ。僕と一曲、踊ってもらえるだろうか」


 ぶっきら棒な声音。笑顔の一つもない上、モニカから視線すら逸している。
 けれどその瞬間、周囲から俄にざわめきが起こった。


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