断る――――前にもそう言ったはずだ
「それはそうと、お父様。先日は新しい茶葉をありがとうございました! 妃殿下も、と〜ってもお喜びになっておりましたわ」


 コゼットはそう言って、無邪気な笑みを浮かべる。
 カステルノー伯爵はしばし目を丸くした後、ニヤリと目を細めた。


「妃殿下にお喜びいただけたとは……それは良かった。苦労して取り寄せた甲斐があったよ。
それで? よく効いているのか?」

「ええ、もちろん! 今日まさに、その効果を確認したところですわ」


 親が親なら子も子――――二人はとてもよく似た表情で笑っている。


 茶葉の効果について、カステルノー伯爵は手紙でも口頭でも、ハッキリと明言したことはない。
 コゼットもまた、それについて尋ねはしない。

 けれど、二人共通の目的がなんなのか考えれば、答えは簡単に導き出せる。
 コゼットはニコリと微笑んだ。


「妃殿下との接触はまたの機会に設定いたしますわ。ヴィクトルを使えば妃殿下を誘導するぐらい容易いですもの。ねえ、ヴィクトル」


 その時、コゼットは部屋の隅に居た長身の男性を振り返った。
 彼は人当たりの良い笑みを浮かべ「もちろんです、コゼット様」と胸を叩く。コゼットはニコリと微笑み返した。


「それからお父様、私も、これまでとは違う形で妃殿下に揺さぶりをかけたいと考えてますの。
近い内に私がきっと、妃殿下を寝室から引きずり出してみせますわ」


 愛らしい瞳に野心の炎が燃え盛る。

 全く、末恐ろしい娘だ――――カステルノー伯爵は「お前の好きにしなさい」と口にして、ニヤリと笑った。
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