断る――――前にもそう言ったはずだ
「モニカ――――すまない」


 エルネストはオロオロしながら、彼女の涙を無骨に拭う。


「違うんです、エルネスト様。わたくしは今、嬉しいのです」


 今回のことで感情を表に出せるようになったのはエルネストだけではない。
 モニカもようやく、自分の気持ちを素直に出せるようになったのだ。

 モニカは恐る恐る、エルネストに身体を預けてみる。ひどくたどたどしい手付きではあるが、彼はモニカを優しく撫でてくれた。
 それがあまりにも嬉しくて、モニカはそっと目を細める。頭上がエルネストが息を呑んだのが分かった。


「――――エルネスト様、わたくしから一つ、お願いごとをしてもよろしいでしょうか?」

「もちろん。どんな願いでも叶えると誓おう」


 エルネストは真剣な眼差しで、モニカのことをじっと見つめる。


「どうか……どうか、わたくしに笑いかけていただけませんか? わたくしはずっと、貴方の笑顔が見たかったのです」


 あまりにもささやかなモニカの願い。エルネストは目を見開き、それからゆっくりと目を細める。

 愛情に満ちた温かな眼差し、穏やかに弧を描く唇。
 彼女が求めていた全てがそこにあった。


「エルネスト様――――どうかわたくしを、愛してくださいませんか?」


 モニカはそう言って、エルネストの胸へと飛び込んだ。

 一つと言いつつ、願い事はどんどん増えていく。
 けれど、モニカはもう、それを口にすることを躊躇わない。今のエルネストならば、彼女の全てを受け入れてくれる――――そう思えるからだ。

 諦めていたもの、願い、時間が堰を切ったように動き出す。


「もちろん。
愛しているよ、モニカ。
これまでも、これからも、ずっと」


 エルネストが笑う。
 モニカも笑う。
 二人は微笑み合いながら、口づけを交わした。
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