※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「カモミールとほうじ茶をブレンドしてみました。カモミールは安眠に効果があるとされてるんです」

 ほらっと言いながら自分の目元を指差す。

「高遠さん、目の下の隈がすごいから。最近ぐっすり眠れてなかったんじゃないかと思って」

 温かい飲み物は副交感神経を優位にさせ、リラックス効果があるとされている。夏場はエアコンのおかげで足先が冷えることも多い。暑いからといって冷たい物ばかり飲んでいては身体にも負担がかかってしまう。

「私は元の職場で何があったか窺いません。もちろんほのかから聞き出すようなこともしません」

 紗良は友好の証として右手を差し出した。
 
「ルームシェアしましょう!!家賃を全額ご負担いただけるなんてすっごく助かります。実は私、ゆくゆくはお紅茶のカフェを開きたいなと思って開業資金を貯めているところなんです」

 静流に同情する気持ちがないと言えば嘘になる。
 紗良に恋人や想い人がいればまた話が違っただろうが、生憎とどちらとも縁遠くなっている。少なくともカフェの開業に漕ぎ着けるまでは、恋人なんて作っていられない。

(まあ、本当に結婚するわけでもないし。なんとかなるでしょ)

 今は未来のことよりも目の前にある実利を取りたい。静流の出した条件は軍資金を貯めたい紗良にも都合が良かった。

「ありがとうございます。助かります」

 静流はこの日初めて笑顔を見せると、紗良の右手を握り返したのだった。

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