※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
8.じれったい蜜月


「うんうん。アイスティーもいい感じに色がででいるし、コクのあるジェラートも美味しい……。試しにスピカでも出してみない?」
「いいんですか!?」

 突然始まった夏の暑さに身体が悲鳴を上げ始めた七月中旬。
 自作の紅茶フロートを味見してもらった紗良は弥生からの提案に心を躍らせた。

「夏だけの期間限定ってことで来週からお店に出そうか。レシピを教えてくれる?」
「はいっ!!」

 弥生に自作のフードメニューを試食してもらったことはこれまでもあったが、スピカでも出そうと言ってもらえたことはない。

 その日の夜、紅茶フロートがスピカのメニューに採用されたことを静流に報告すると、自分のことのように喜んでくれた。

「良かったですね」
「はいっ!!」

 夏限定とはいえ自分が考案したメニューを食べてもらえる。これほど嬉しいことはない。弥生に渡すレシピを書いている最中も、紗良は弾む心をおさえきれないでいた。

「これはぜひ飲みに行かないといけませんね」
「わざわざスピカまで来なくても家で作りますよ?練習もしますし」
「大丈夫です。家でもいただきますから」
「飲み過ぎでお腹壊しても知りませんからね……?」
「覚悟しておきます」

 蕩けるほどの極上の笑みで見つめられて、紗良は思わず目を伏せた。
 静流と恋人になったという実感が少しだけ湧いてくる。

 二人の新しい関係が始まったというものの、恋人になったからといって急に何かが変わるということもない。
< 142 / 210 >

この作品をシェア

pagetop