※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「退職後はどうされる予定なんすか?」
「……実は妻と田舎に戻って蕎麦打ち職人になろうかと思って。もう店の改装もすすめているんだ」
退職後の意外な転職先におおっとどよめきが起こる。
脱サラして田舎で蕎麦を打つなんて、我孫子と同じ年代の男性なら一度くらいは夢見た憧れの転職先だ。
いかにものんびりしていそうな我孫子が、夢を実現させるためにコツコツ頑張っていたなんて知らなかった。
(私もいつかは紅茶のカフェを開くんだっ……!!)
紗良は負けじとばかりに鼻息を荒くした。
流石に我孫子のように五十歳を過ぎてまでは待てない。就職して五年。コツコツ貯めていたお給料とボーナスもそろそろ目標額に達する。夢を現実にする日も近い。
紗良の妄想の中ではどんなお店にするかというコンセプトは既に決まっている。
(紅茶オンリーでもいいけど中国茶と日本茶もメニューに入れたいんだよね。常連になってくれた人のためにも定期的にメニューは入れ替えたいな……。軽食には絶対紅茶のシフォンケーキは外せない。あとピザトースト!!卵サンドもいいよなあ……)
仕事とスピカの手伝いの合間に数々のカフェを巡って来た経験がここで生きてくる。
数々のフードを食べ歩いてきた紗良の頭にはお紅茶との相性が抜群そうなあらゆる食べ物がインプットされていた。