※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
もちろんメニュー以外にもこだわりがある。ティーカップは一目惚れした益子焼の窯元の物を使おうとずっと前から心に決めていた。
(ふふふ……。たーのーしー!!)
妄想の翼を広げに広げた紗良はここが送別会の会場だということも忘れ、ひとりでニヤついていた。
「三船さん?」
「ふへへ……」
飲み会では控えめな紗良が突如ぐふぐふと笑い出したので皆どうしたことかと驚いている。いつもの面々が紗良の近くに集まってくる。
吉住は紗良の持っていたグラスを取り上げ、小指で中の液体を舐めた。
「あ、これ……薄くなってますけど水じゃなくて焼酎の水割りっすよ」
紗良はお酒が殆ど飲めない。お猪口一杯程度のビールが許容量で、いつも最初の乾杯以外はお酒に口をつけない。薄い水割りとはいえ焼酎なんて飲んだ日には大変なことになる。……実際に大変なことになった。
「あれまあ。三船さん、大丈夫かい?」
騒ぎを聞きつけたのか我孫子までわざわざ紗良の元までやってくる。我孫子の額の皺を見ていたらどうしてか今度はジワリと涙が滲んでいく。