ベタに、切って

京都ロマンス物語


「カナコ、京都行くよ」


唐突に家に突撃してきたキミエは鼻息を荒くしながら、ドアを開けるなり告げた。

目を見開いているキミエが怖くて目線を下ろすと、もう既に小型のキャリーケースを持ってきているらしい。キャリーケースにはキミエの好きなバンドのステッカーがべたべたと貼られていて、少しばかり黄ばんでいる。

もう夜の九時ごろは昼間と違って静けさが立ち込めて肌寒い。星は見えない代わりに空より暗い雲が覆っている。明日は雨だと天気予報のキャスターが言っていた。キミエが家に来た理由を私は知っている。

私の返信が即レスから、二日三日空いたこと。
SNSの更新がぱったりやんだこと。一週間に一回は必ず会っていたのに避けていたこと。


ーーーーケンイチのSNSに結婚の報告がされてあったのを見たこと。
状況を察するなり、彼女はその行動力を持って家に来てくれたのだろう。


私はそのケンイチのSNSを見るなり震えてしまって、ケンイチとまともに話すことすら出来なかったのに。彼女の目は有無言わせぬ力強さがあった。
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