大江戸ガーディアンズ
雨雲の切れ間なのか、俄かに空が明るくなってきた。
先刻までざあざあ降っていた雨が、あっと云う間に弱まった。
されど、普請場の足場はぐっしょりと濡れてしまっていて、今日はもう乾くことはない。
それに、すでに仕事は「上がり」だ。
——これなら吉原へひとっ走りできそうだな。
与太はほくそ笑む。
おかげで奉行所の御用向きのためだと知れるとたとえ半日であろうと暇を出すのを渋る父親に、それを請う手間が省けるってものだ。
まさに「恵みの雨」である。
「……したら、また明日な」
思い立ったら吉日とばかり、多平と久作にさように告げると与太は庫裡から飛び出た。
そぼ降る小雨の中、吉原へ向けて一目散に駆けていく。
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見返り柳の岸辺で猪牙舟を降りた与太は、お歯黒どぶの跳橋を渡ると吉原の入り口である鏑木門の内へ足早に入っていった。
小雨はすっかり止んでいた。
いつもは必ず顔を出す同心や岡っ引きたちのいる面番所を今日は素通りし、仲之町の大通りをすぐ左に曲がって、大見世の廓が立ち並ぶ江戸町二丁目を目指す。
そして久喜萬字屋の前まで来ると、大籬の向こうへ訪いの声をかけた。
すると、中から男衆が出てきた。
「へぇ、哥さん、今日は正面からのお出ましでござんすか」
当代随一の女形の歌舞伎役者もかくやと云うくらい細面の色男が、与太に向かって訝しげに尋ねる。
「まさか、久喜萬字屋に妓を買いにきたわけじゃござんせんでしょう。
……一体、何の御用でやんす」
彦左であった。