大江戸ガーディアンズ
「いかにも。粂之助は未だ若衆髷を結うておるな」
三十八の若さで早逝した先代藩主・兵部少輔の嫡男・浅野 粂之助は、父親が死去したときにはまだ母の胎の内であった。
あれから月日は流れたが、粂之助はまだ元服を迎えられる歳まで育っていない。
「うむ……流石に子どもを連れては登楼れぬ」
近江守が懐手をして唸った。
「さすれば、奉行所に隠密廻りの同心がおりまするゆえ、若様らしゅう見えるよう身を変装させませぬか」
佐久間が具申をする。
「……おお、なるほど」
近江守は満足げに一つ肯いた。
広島新田藩は芸州・広島藩の支藩で小藩であるがゆえ、次期藩主が実はまだ元服前であることなぞ、おそらく吉原で知る者はおるまい。
「しからば、南北どちらの隠密廻りを使うかでござるが……」
とたんに、多聞が顔を曇らせる。
「あいにく、南町は隠密廻りの二人のうち若い方でも三十を超えておるがゆえ……
若様の身代わりは厳しゅうござりまするな」
南町奉行所・隠密廻り同心の『若い方』杉山 新九郎は、妻子持ちの三十過ぎである。
何処をどう見たとて、廓を初めて訪れる「若様」には到底思えない。
「ならば、『北町』にちょうど頃合いの者がおりまする。
島村 広次郎と申す同心の見習いでござるが、もともと父親の隠密廻り同心・島村 勘解由の代わりに、御役目を務めたいと申しておったゆえ」
「では、その男が舞ひつるの『初見世』で『娼方』となるのか……」
舞ひつるとは姉女郎だった羽衣の御座敷で幾度となく顔を合わせてきた近江守は、感慨深げにつぶやいた。
其の一言に、今まで一人静かに話を聞いていた兵馬は目を剥いた。
——な、な、なんだってぇ……