大江戸ガーディアンズ
蹴飛ばされて飛び散った菜種油に、横倒しになった行燈の火が乗り移る。
すると、畳の上に炎が上がり、またたく間に畳の上を火が走っていく。
「おい、この部屋に綿入りの夜具はないのかっ」
兵馬は声を張り上げた。
「こちらには、ありませぬ」
美鶴が即座に応じた。
とりあえず夜具で押さえ込もうとしたが、あいにく殺風景な羽衣の「部屋」にはさようなものはない。
昼三の羽衣は、贅の限りを尽くした織地にたっぶりの綿が包まれた夜具を持っている。
ただ、それがあるのはかような角っこの三畳間ではなく「仕事」をするだだっ広い座敷だ。
火のない畳から、煙が立ち上ってきた。
ぶすぶすと厭な音を立てている。
焦げ臭さと煙たさで、皆んなおのれの袂で顔を覆う。
「御前様、ご無事ごさりまするかっ」
焦げ臭さと煙が風に乗って流れて行ったのか、廊下の隅で控えていたと思われる近江守の近侍が血相を変えて飛び込んできた。
「此処は危のうござりまする。どうか、羽衣を連れてお逃げになってくだされ」
兵馬の言葉に近江守は肯くと、羽衣を抱えるようにしてこの場を去ろうとしたそのとき——