大江戸ガーディアンズ
「岡っ引きの伊作の女房もまた、やはり奥方様が安芸国から青山緑町に輿入れの際に侍女として連れてきた『加代』と云う女であった。
安芸国・広島藩の藩士の娘だ。青山緑町の御屋敷を出て、三ノ輪で小間物屋を始めたのも奥方様の指図だ」
また酒を呑る。
今宵の酒は御前様より賜った安芸国の西条酒である。
灘や伏見と並び称されてもおかしくはないほどの銘酒であるが、残念ながら江戸では滅多にお目にかかれない。
「彦左なる者の素性も判ったぞ。
母親はおまえも知ってのとおり、吉原の廓で昼三だった妓だ。
その『娼方』であったのが、御前様の奥方様の父だったそうだ。
広島藩主の親戚筋で家老だ」
「と云うことは……彦左が『あの方』と申していたのはやはり……」
「奥方様であるな。
奥方様は末娘らしいから彦左の母よりも歳は下であろうから『叔母』にあたる」
「されど、いくら『叔母と甥』であろうと、彦左は吉原におりまする。どのように知り合えたのでござろうか」
美鶴は盃に酒を注ぎつつ尋ねる。
「彦左が廓の妓たちと『懇ろ』にしていたのは、何も今に始まったことではあらぬ。
妓たちは『間夫』となった彦左に『外』でさまざまな物を買うてきてもらっておったそうだ」
間夫とは、廓の妓が「まごころ」を差し出した相手である。
妓たちは我が身が彦左の「唯一」だと信じて疑わずに差し出していたことだろう。
「さような中で知り合ったのが、三ノ輪にある加代の小間物屋だが……
処も吉原に近いし、やはり奥方様が初めから彦左に繋がるために、加代に其処で店を出させたとしか思えんな……」