サイコな本部長の偏愛事情

「お幸せに~」
「有難うございます」

隣の席の乗客から祝福の言葉を頂いた。
飛行機は空港に到着し、次々と乗客が順番に降りてゆく。
そんな人々を見送り、降りる準備をゆっくりとしながら、彼との再会が待ち遠しくて。

乗客が降り終わると、CAさんは機内の忘れ物のチェックを始めた。

「大槻さん、今日は有難うございました」
「とんでもございません。……環様、どうぞお幸せに」

大槻さんは丁寧にお辞儀をして業務へと戻って行った。
彼女が彼と別れてくれたお陰で、フリーな彼と知り合うことが出来たのだから、大槻さんには感謝しないとね。
心の中で感謝しつつ、前方のドアから出て、ボーディングブリッジの端で足を止める。

緊張する。
何て声を掛けたらいいんだろう?
ドキドキと高鳴る鼓動が息苦しいくらい激しくて。
何度も深呼吸して気を落ち着かせる。

スマホのカメラモードでメイクの最終チェックをしていると、視界の隅に黒い人影を感じた。
ゆっくりと視線を移すと、濃紺のパイロットスーツに身を包んだ彼がいた。
帽子を脇に抱え、フライトバッグを手にして。

「メイク直して、男にでも会うつもりか?」
「郁さんっ!!」

初めて見る操縦士の制服姿が目に留まり、カッコいいと思ったと同時に駆け出していた、彼の元に。

「相手の男はイケメンか?」
「はい、物凄~くイケメンですっ」
「へえ~」
「私が見えますか?」
「フッ、当たり前だろ。航空身体検査も合格してる」
「本当に良かった……。操縦士復帰、おめでとうございますっ」

正直なところ、本人の口から聞くまでは信じられずにいた。
夢なのかな?って半信半疑だったから。
泣かないでいようと思っていたのに、やっぱり無理みたい。
嬉しさで涙がこみ上げて来る。

「ただいま。ありがとな、……彩葉」
「っ……、郁さんっ、お帰りなさいっ」

ぎゅっときつく抱き締められる。
会えなかった二年を埋めるかのように。

「やっぱり、イイ女だな」

~FIN~
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