サイコな本部長の偏愛事情

人間は、お腹が痛ければお腹を。
頭が痛ければ頭に自然と手が行くもの。
気持ちが悪かったり、胸が苦しければ胸の辺りを押さえるし、クラクラ眩暈がしたりぼーっとする時は瞳孔で分かる。

さっきの彼は、そのどれにも当てはなまらなかった。

足取りはしっかり歩けていたし、壁に手をついてた方じゃないもう片方の手で、駐車場へと出る通路のドアを開けたから両手両腕に支障はないはず。
だとすると、どこが?

知り合い云々以前に、医師として気になってしまう。
もし、頻繁に鋭い痛みがあるなら、慢性的な病気になっている可能性も高い。

「明日、確認すればいいか」

スマホで夕食(夜食?)を検索しながら、電車に乗り込んだ。

***

翌日、中番勤務のため昼食用のお弁当を手にして京急線からクリニックがあるターミナル内に入ると、出発ロビーのチェックインカウンター前に見慣れた人を発見。
けれど、いつもは一緒に行動しているもう一人の人物が見当たらない。

クリニックがある第三ターミナルの京急線改札は三階にあり、ターミナル内に入ると必然的に出発ロビーを横切る形になる。
その奥のエレベーターで一階に降りると、勤務するクリニックがあるのだ。

「あのっ、すみません」
「はい?」

濃紺のスーツ姿の彼は、グランドスタッフからファイルを受け取り、振り返った。

「空港病院の医師の環です」
「はい」
「あの、……財前さんは?」

いつも財前さんの後ろを歩く秘書に声を掛けた。

「財前は体調不良のため、休んでいます」
「え?……そんなに悪いんですか?」
「あ、いえ……、大事を取っての休みですので、ご心配なく」
「そうですか。……それならよかった」

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