サイコな本部長の偏愛事情

「おはようございま~す」
「環先生、おはようございます」
「環悪い。午後、本院に呼ばれてるから二~三時間留守にするけど」
「分かりました、大丈夫ですよ」

早番勤務の奥田鉄二五十二歳(空港病院 院長)は、電子カルテを入力しながら出勤して来た環に声を掛けた。

「あ、そうだっ!ASJのイケメン機長、来月にCAの夏目さんと結婚されるそうですよ?」
「誰、その人たち。……有名な人?」
「えっ、環先生、知らないんですか?!あ、そうか、まだここに来て三カ月弱ですもんね」

この手の話題には疎い。
そもそも、色んな航空会社があるし、操縦士とCAだけでも物凄い数なのに、それ以外にもグランドスタッフやショップの店員とか含めたら、もう恐ろしいくらいの人数だよ。
さすがに、ASJみたいに大手航空会社のグランドスタッフなら、空港内でよく顔を合わせるから覚えられるにしたって。
機長やCAなんて、殆ど面識ない。

白衣に袖を通しながら鏡で身だしなみを整えていると。

「その夏目さんはASJの広告塔になってるあのCAさんで、噂だと財前さんの恋人だったらしいですよ」
「……え?」
「しかも、お相手のイケメン機長の大槻さんは、同期で親友だとか」
「……何それ」
「大槻機長もイケメンだけど、私ならやっぱり断然財前さんだなぁ~」
「ほら、無駄口叩いてないで検査の準備しろ」
「はぁ~い」

看護師の角田さん(角田美奈、二十四歳)は去年の春から空港病院勤務で、若いというのもあるけど、噂話がとにかく好物。
あちこちの航空会社のスタッフと飲み歩いてるらしくて、その情報網は侮れない。

そんな彼女が言うのだから……。

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