サイコな本部長の偏愛事情
逃げる口実が無くなったら、正面突破しかない

*****

「おはようございま~す」
「彩葉先生、おはよ~」
「あっ、鈴木さん、もう腰大丈夫なんですか?」
「うん、もうすっかり良くなったわ。ありがとね~」
「今度から重いキャリーは体に引き寄せてからですからね?」
「分かってるって」

グランドスタッフの鈴木佳奈子三十六歳は、先週重いキャリーを計測台の上に置こうとした際にぎっくり腰を起こしたばかり。
第三ターミナルは国際線があるため、大型キャリーでの旅行者も多い。
キャリーの個数が増えると超過料金も嵩むため、ついつい詰め込んでしまう人も多い。

沢山の利用客がいれば、それに比例して怪我や病気を患う人も多く、空港病院は目まぐるしく稼働している。

中番勤務の今日は、早朝に財前さんの自宅で診察をして、彼を送り出してから自宅に戻り朝食と洗濯を済ませ、そして今出勤中。
午前便の混雑する出発ロビーを通過しながら、いつもの顔ぶれに挨拶をする。

「おはよう、彩葉ちゃんっ」
「おはようございます」
「今度のお休み、いつなの~?」
「お休みですか?……明後日だったかな?それが、何か?」
「明後日?!……良かったら、ご飯でもいかない?」
「え?」

さて、何て断ろうかな。
女医が珍しいのか分からないけど、他に綺麗な女性スタッフなんて腐るほどいるのに、こうしてデートに誘われるのは日常茶飯事。
フリーになって二か月。
だいぶ慣れて来たとはいえ、断るのはあまりいい気分じゃない。

「ごめんなさい、医師仲間と映画見に行く事になってて」
「そうなんですね……。じゃあ、また今度機会があったら」
「はい」

< 70 / 142 >

この作品をシェア

pagetop