サイコな本部長の偏愛事情

***

「何読んでるんだ?……論文か?」
「はい」
「相変わらず、熱心だな」
「これくらいしか、……取り柄がないですから」

休憩時間を利用しておにぎりを頬張りながら英語で書かれている論文を読み漁り、気になる箇所を書き留める。
院長の奥田は、彩葉が研修医の頃に指導医として担当したこともある医師だ。
元々は神経内科が専門で、脳神経の分野では結構有名な人だ。

葛城先輩から借りた大量の論文を暇さえあれば読み漁る日々。
少しでも役に立つ情報があればと思い、分からない専門用語を調べるために専門外の医学書を取り寄せてまでして……。

「環せんせいっ、三階出発ロビーの制限区域内で痙攣発作状態の方一名、緊急要請入りました」
「はいっ、直ぐ行きますっ!」

***

「いつからですか?」
「数分前からですっ」
「恩田さん、バイタル確認」
「はいっ」

看護師の恩田が血圧、脈拍などを確認している間に環は呼吸の有無、心音と瞳孔を確認する。
環たちが到着した時には既に硬直は治まっていて、軽い周期的な痙攣を繰り返していた。

幸いにも痙攣が治まると呼吸も再開し、最悪の事態は避けられたようだ。

「状況は?」
「痙攣発作による意識障害です。既に呼吸は安定してますが、経過観察が必要なので搬送かクリニックで様子を見た方がよいかと思います。後はご家族の方のご意向に沿う形で」
「了解」

声だけで誰だか分かる。
それに、足下の革靴でも。

事務的な会話なのに、声が聞けただけでホッとする。
今日も体調に異常は無さそうだと。

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