隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 屋敷は白い壁で覆われているが、壁面はレース編みを思わせるような細やかなレリーフで装飾されている。
「私の別荘でして。父が捕まってから、王都の別邸を売り払い、こちらでひっそりと暮らしております。ですが、静かでいいところですよ」
 人との喧騒からは程遠い長閑な場所。
 アルベティーナは黙ってドロテオの話に耳を傾けていた。
 ウォルシュ侯爵が捕まっても、ドロテオが外交大臣を辞しただけでお咎めが済んだのは、彼は父の思惑を知らなかったと主張したからだ。だが、責任を取って自ら外交大臣を辞した。ルドルフの執務室で目にした資料には、そのように書かれてあったことを思い出した。
 エントランスに入るとすぐに、大きなソファが目についた。どうやらこの場所はサロンと兼用されているようだ。レンガ敷の床に、大きな暖炉。
 そして、そのソファに深々と座り、優雅にお茶を飲んでいる男女。
「あら、いやだ。本当にあの人にそっくり」
 アルベティーナを見るや否や、すぐさま声をかけてきたのは女性の方。金色の豊かな髪は緩やかに波打っており、青の瞳が鋭くアルベティーナを捕らえている。
「母上。仮にも僕の妹です。いや、マルグレットの王女となるべき女性ですよ。そのような態度を慎んだほうがいいのでは?」
 会話から察するに、男女は母と息子。息子の方も母親とよく似た金色の髪。そしてアルベティーナと同じ色のスカブルーの瞳。
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