【受賞】隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 その甲斐もあってか、この控室付近では大きな揉め事はなかった。
 大女優が馬車に乗ってこの劇場を後にした時、ふっと体中の力が抜けきるような安堵感に包まれた。
「お疲れ~」
「お疲れさまでした」
 イリダルと互いに労いの言葉を掛け合う。
「アルベティーナ。俺、直帰するけど。君はどうするつもりだい?」
「私は一度、向こうに戻ります。報告書を仕上げないと」
「そうか。てことは、今回の報告書は君に任せていいのかな?」
 報告書は担当する場の代表の一人が提出すればいいことになっている。
「はい。報告書を書く練習も必要であると、隊長からは言われておりますので。今回の件は私の方から報告書を出します」
「君は、真面目だな。俺の確認が必要だったら……。明日、見てやる」
 イリダルが呟くと、じゃ、と片手を上げて去っていった。明日、と口にするところが彼らしいと思いながら、アルベティーナはその背を見送った。
 そして一人になったところで小さく息を吐けば、余計に気が緩んでしまう。
 他の騎士たちも撤収を始めていることに気付いた。今日は現地解散だ。イリダルのように直帰する者もいれば、アルベティーナのように駐屯所へ戻る者もいる。これは個人の判断に委ねられていた。
 そして今、ルドルフはこの現場にいなかった。警備隊の隊長でありながらも、騎士団の団長である彼は、この警備隊を取りまとめることはするのだが、現場の指揮は副隊長や派遣された班の班長が執ることが多かった。ルドルフ自らが指揮を執るのは、王城で開かれる大きな催しものの警備のときだけのようだ。忙しい人であることは、アルベティーナだって重々承知している。
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