隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
「わかりました。もう、気にしません。ですから、団長も忘れてください」
 顔をあげることができないアルベティーナは、そのままルドルフからの言葉を待っていた。だが、聞こえてきたのは彼の笑い声。
「くっ、ふふっ……」
恐る恐る顔を上げて、指の隙間から彼の顔をこっそりと覗く。
「やっと、顔をあげたな」
 指の隙間から見ただけなのに、ルドルフと目が合ってしまった。そのルドルフは右手の小指で目尻を拭っている。もしかして、涙が出るほど笑われてしまったのだろうか。
「ああ、すまない。お前が思った通りの反応をしてくれてだな。ああ、久しぶりにこんなに笑ったよ」
 目の前で大笑いしているルドルフを見ていたら、先ほどまでの羞恥心はどこかに飛んでいってしまった。アルベティーナもやっと顔から手を離し、どこか冷めた目で彼を見つめる。ここまで派手に笑われてしまったら、逆に開き直れてしまう。
「団長、笑い過ぎです」
 先ほどとは違う意味で頬を染め上げているアルベティーナは、ちょっとだけ唇を尖らせてみた。
「ああ。悪かった。だがこれでお前も、もう気にしなくて済むだろう?」
「もう、そのことについては口にしないでください」
 乱暴にカップに手を伸ばした彼女は、勢いよく中身を飲み干した。
「ごちそうさまでした。時間ですから、これで失礼します」
 アルベティーナは立ち上がる。彼女自身も、何に対してこのような苛々とした気持ちになっているのか、よくわからなかった。
「アルベティーナ」
 扉の前に立った彼女の背に、ルドルフの低い声がかけられる。
「明日の朝も、手伝いを頼めるか?」
 扉に手をかけたまま、アルベティーナは振り返らずに「はい」とだけ答えた。
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