セカンドバージン争奪戦~当事者は私ですけど?

その日から30分で帰宅出来るという余裕もあり、百貨店に立ち寄ることにした。ジュエリーショップはもちろんのこと、いろいろなブランドショップを覗いてみようと思ったのだ。

いくつかの店でアクセサリーと洋服の試着を繰り返し、自分に似合うかどうかを見る時って自分がどこをチェックしているかなぁと意識してみたり、配布用のリーフレットをいくつももらってから閉店30分前に食品フロアへ降りると、割り引きされていたおにぎりとポテトサラダ、福袋状態のパンを買って帰る。

手にした袋をぷらぷらとさせながら、明日は自炊しようと決意して3階まで階段で上がると

「遅い」
「…江藤さん?」

私の部屋のドアにもたれて長い足をもて余すように軽くクロスさせている江藤さんが、身動きしないまま一言だけ放った。

「ぇっと…こんばんは?」
「スマホ、見てないのか?」

退社時に見ただけで見ていないスマホを見てみると

‘引っ越しの連絡がないのは何事だ?’
‘一緒に食事しよう’
‘今、どこにいる?’

のメッセージが30分ごとにあり、そのあと不在着信の履歴があった。

「すみません」
「何が?」
「スマホ、見ていませんでした」
「それだけ?」

そう言った彼は右手の人差し指をくいくいと動かして私を…手招きならぬ、指招きする。
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