俺様男子はお気に入りを離さない

柔らかな感触が唇に触れ、そして離れる。
名残惜しい様な気持ちにほうっとため息が漏れそうになったところ、再び重なる唇。

「んっ……」

びっくりして思わず吐息が漏れた。
優しいキスは私を蕩けさせるのに十分で、骨抜きにされた私は薫くんの胸の中にすっぽり収まる。

「可愛い声出すなよ」

耳元で囁かれて、ぞくりと震える。

花火が次々と打ち上がり、近くで歓声がわき起こる。
同じ広場にいるのに、私たちだけ別の空間にいるような、そんな錯覚にしばし酔いしれた。

なんだろう、私たちの関係は。
別に付き合っているわけでもない。
好きだと言われてもいない。
私も言っていない。

だけど恋人みたいな振る舞いに、心がザワザワ揺れる。

薫くんは学園の人気者で、ファンクラブも親衛隊も取り巻きもいるスーパースターなのだ。
そんな彼が芋くさい私に構う理由は何?

夢でも見ているのかな?
夢だったら冷めないでほしい。
ずっと、薫くんの側にいて、幸せな気持ちでいたいよ。

「千花子」

「はい」

「また来年も一緒に花火を見ような」

感極まって言葉が出ないかわりに大きく頷いた。
どうか約束が果たされますように。
また来年も薫くんと一緒に……。

打ち上がる花火がまるで流れ星であるかのように、私は何度も何度も心の中で祈った。
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