俺様男子はお気に入りを離さない

「あ、あの、御堂くんは陸上部行かなくていいの？」

「ああ、実は今足を痛めてて……って何で知ってるんだ？」

「だって有名だし。それにここからもよく見えるんだよ、陸上部」

「ふーん 」

ほら、と外を指差してみたけれど、三階の美術室からは少し覗き込まないと見えない位置に陸上部は活動している。
これじゃあ私がいつも覗いているみたいな発言だ。

ち、違う。
そうじゃなくて。

あわわと必死で弁明を考えていると、御堂くんはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる。
そしてとんでもないことを口走った。

「なあ、芋子って俺のこと好きだろ」

「えっ、いやっ、す、好きじゃないですっ！」

思わず反論すれば、御堂くんはクスクスと笑い出す。

「真っ赤な顔して小学生みたいな返答するなよ」

「うっ……」

どう反論しても負ける気がした。
御堂くんは一枚も二枚も上手なのだ。

「俺は嫌いじゃないぜ、芋子のこと」

「へっ？」

い、今なんて？

筆を止めて御堂くんを見れば、彼はもうスマホに視線を移していた。

さっきのは聞き間違い？
ドキドキと鼓動が止まらなくなって私はキャンバスに視線を移す。

雑念に支配されてその日はまったく捗らなかった。

それから御堂くんは放課後毎日美術室へ来た。
時間はバラバラだけど、私が絵を描いている横で頬杖をつきながらスマホをいじるのが日課にでもなったみたい。

相変わらず取り巻きからは逃げているみたいだけど。