君の一番は僕がいい
 何となくわかっていた。
 伊藤、花沢、佐倉の三人を殺したのが私だと気づいてからまだほかに私が犯した過ちはどこかにあるのではないかと。
 クマ太郎の言ったことを思い出す。
 胸の痛みはじきにわかるということ。
 まさか、啓に刺された痛みだったなんて思いたくもない事実だった。
 必死に、私の緊急手術をしてくれている間、ずっと考えた。
 私は何をしてしまったのだろうかと。
 記憶にない中、ほかに誰を殺したんだろう。
 一番身近にいた彼の心も私は殺した。
 美馬のことが好き、それは初めて聞いた話だった。
 小学生に入ったころから彼は変わった。
 親しい人としか話さなくなった。
 そもそも小学生に上がっただけじゃ何がわかるんだという話だけれど。
 彼は、男子とは一定数の人としか話さない。
 それは好きな人に対して慎重になってしまうからという表れだったのかもしれない。
 そんな彼の好きな人を私は殺した。
 殺したんだ、私は。
 クマ太郎に文句を言い続けたから。
 興味のない話をいつまでもする彼女らにストレスがあったのは事実だしそれがクマ太郎に吐くくらいなら問題ないと言いたい放題言ったことを覚えてる。
 そっか……。
 私は、一番傷つけたくなかった人まで傷つけたんだ。
 死にたくないなんて思えなかった。
 このまま罪が公にならないまま死にたいと思った。
 もういいんだ。
 もう、終わりでいい。
 啓もほかの人たちもみんな殺してた。
 最低だ。
 人を殺すなんてそんな女になりたくなかったのに……。
 医療機械がピーピーと音を鳴らす。
 きっと出血量が多いんだ。
 それでいいよ。
 助からなくていい。
 私は優しくもないしいい人でもない。
 人を殺したただの殺人犯。
 さよなら、私。
 ごめんね、ママ、パパ。
 こんな汚い女でほんとにごめんね……。
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