君の一番は僕がいい
エピローグ
 人間ははけ口が欲しい生き物だ。
 何かに寄っていき、嫌なことがあったら全部吐き出す。
 だからみんな、SNSを使う。今の人たちはSNSの情報を信じ切って考えることを放棄する。
 それがものでも人でも関係ない。
 その行為が誰に迷惑をかけているのかなんてどうだっていい。
 そんなこと誰も興味がないのだから。
 だから、先日死んだ日野楓も後悔したまま死ぬのだ。
 そもそも日野楓の死因は出血量が多かったことに問題がある。
 思いのほか、彼は深く体を刺したようで乱暴に引き抜いたために傷が大きくなった。
 良いね。
 幼馴染の二人がこうやって泥沼に落ちて沈んでいくざまは。
 自分で考える力がないから僕みたいなやつに踊らされて殺し合う。
 それが壁一枚あればもっと激化する。
 まるでSNSみたいに。
 根も葉もないうわさ話は独り歩きする。
 適当にありそうな話を作っておけばそれに基づいて動いていく。
 結局、信じたいことだけ信じて気持ちをぶつけたいだけ。
 それが快感になれば、また何度でもやるだろう。
 SNSに吐き出してまた同じことを繰り返す。
 誰かが炎上したらたまっていたストレスも全部彼らに向ける。
 自分で考えることもしないで、そこにある情報だけを信じて、ことの起承転結を一切見ないで自分の意見が正しいとあたかも当然のように的外れなことを言う。
 物事をしっかりと見ていれば誰が正しくて誰が間違っているのかなんてすぐにわかるのに。
 歴史だってその人物の行った政策が本当かどうかは教科書に書いてあるから正しいとは限らない。
 その時代を生きていないから。
 歴史学者がそう言っていたからってだけで信じるのなら、事象Aに対してAと近しいBが言っていたからといえば皆信じるわけだ。
 そうやって、今の時代は流れてる。
 嘘かほんとかなんてほんとはどうでもいいってこと気づいてない。
 自分は正しい、だけど面と向かって言えない。
 だから、SNSという波に乗せて動画をアップするという脅迫行為を行うことで強く出れたりする。
 実際、言い返されたら何も言えないやつがほとんど。
 SNSだとそれにまた言い返す。
 結局、SNSも現実世界も同じようなものなのだ。
 勝手に広まった情報、LINEやインスタで拡散されればそれが正しいと吸収してしまう。
 だから、あんな被害者はクマに見えて目撃者が人に見なんて襲われてもないくせにそういうのだ。
 襲われた奴が見たのなら死んでるのに、じゃあなんで生きてんの?って話だからね。
 襲われた奴は死んでるのだから誰かに話せるわけがない。
 しっかりその情報を読み、考えていればデマは広がらなかったというのに……。
 もったいないことをしたよね。
 もし、変な情報が今までの時間に流れていなかったら伊藤、花沢、佐倉の三人を殺したのがクマではなく日野楓だと気づいたはずなのに。
 三人は殺されているのだからクマに見えても問題はないし。
 実際、クマのぬいぐるみである僕が殺したわけだからね。
 美馬も佐久間も同じようなものさ。
 あれは、まあ、吉沢の体で殺したのだけど。
 日野も吉沢も同じだ。
 考えなしに動くから自分が殺したと勘違いするんだ。
 吉沢に関してはひどいね。
 失恋にも似た気持ちになったくらいで僕に体を上げたんだもん。
 最高に面白いよ。
 日野も自分が殺したって思いこんだだけっていうのがもっと面白さを引き立たせる。
 考える力があれば僕を始末することはできたのに。
 吉沢は、一年生の時にすぐ僕を処分するように伝えればよかった。それだけのことさ。
 僕が本当のこと言ってる確証なんてどこにもないのだからね。
 まあ、今もし吉沢に僕が処分されたら困るから吉沢も殺しておこう。
 その日、病院の窓から吉沢は飛び降りた。
 これで僕の邪魔するやつらはいなくなった。
 楓に対してもう恋心はないし、次にいこう。
 彼女が死んで両親はいとこの娘さんに僕を上げることにしたそうだ。
 君がその娘さんか……。
(よろしくね。あなたのこと一番に見てるから、僕のことも一番に見てね)
 嬉しそうに喜ぶ娘さん。
「よろしくね!クママンタ!」
 早速あだ名をつけられたらしい。
 だけれど、クマ太郎よりはいいだろう。
 だから、僕は答える。
(こちらこそ。僕が君を幸せにして見せるから)
 この先、楽しい日々が続くことに期待を胸に宿しながら。
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