麻衣ロード、そのイカレた軌跡❷/赤き巣へ
その2
夏美



「結論から言えば、ヤツとその”協力者”による、自作自演の猿芝居だ。まあ、猿芝居と言っても、かなり大がかりなもんだがね」

紅組のお二人の見立てはこうだ

南玉連合公認チーム、レッド・ドッグスのアタマである亜咲を襲撃

墨東会傘下の赤隊を装った女を、警察に出頭させた

武闘派の荒子体制へ代継ぎするこの時期、なんとしても戦争を避けたい組織内の事情を巧みに利用し、交渉を本郷が取りまとめる

本郷は血縁であると噂されている、相和会会長の後ろ盾で、すでに砂垣一派を抑えているだろうから、話は簡単につく

砂垣さんを南玉に謝罪させ、その延長線上で、墨東系列の赤隊を引き抜き、南玉傘下に組み込む

その功績をタテに、麻衣が南玉の勢力図をひっくり返すと…

私と南部さんが会っているあの写真も、本郷が手に入れ、何者かを経由して、木戸真澄に渡った

このスキャンダルと、鷹美に伏せていた亜咲襲撃の件を、都県境一帯に意識的に周知させることで、内部不安を煽り、私たち執行部を辞任に追い込む手だても、本郷が画策したと…

本郷は、今日の幹部会で、現執行部の即時引責辞任を狙っていたらしい

「ちょっと待ってください。自作自演と言っても、亜咲を襲ってるんですよ?これも本郷麻衣が仕掛けてってことですか?」

「ああ。全部の絵を描いたのは、あの1年ということになるな」

「でも、紅子さん…。あの子は亜咲を憧憬してますよ、心の底から。本当に…。いくら何でも、その亜咲を…。信じられないですよ」

達美は本当に衝撃を受けてる様子だった


...



「たっつぁん、噂通り、あの1年っこが相馬豹一の血を汲んでいるとすれば、何でもありなんだ。惑わされちゃいけないぜ」

「…」

達美は目を白黒させて、盛んに首をかしげている

私だって、にわかに信じがたい

私にはともかく、あの子が亜咲や達美に対しては、深い尊敬の念を抱いてるのは、傍から見てもはっきり伝わってきた

「刃根さん、本郷を2年後輩の新入生という捉え方は、しないほうがいいわ、まずはね」

ミキさんも神妙な顔で、つぶやくように言った

今はっきりしているのは、少なくともこういうことだ

我々の引退前に現れた、亜咲を慕う小柄な1年は、とんだ化け物だったと…




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