夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 はっと顔をあげると、一瞬だけシャーリーと目が合った。一瞬であったのは、彼女がすぐに顔を背けたからだ。何かの書類を確認するかのように、それをじっと見つめている。
(シャーリー?)
 なぜかランスロットの胸がぐっと苦しくなった。
 言いたいのに言えない、聞けたいのに聞けないもどかしい思いだけが募っていく。
(シャーリー)
 パサッ。
(シャーリー)
 パサッ。
(シャーリー)
 パサッ。
 すぐそこに彼女がいるのに、彼女への気持ちだけが強くなっていく。
「団長……」
 だから、彼女に呼ばれたことにさえ、ランスロットはなかなか気づかなかった。
「団長」
「あ、なんだ?」
 はっとして顔をあげると、シャーリーはソファ席の前に立っていた。
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