夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 ランスロットが必死で言い訳をしようとすれば、近くに立っていたセバスがコホンと咳払いをする。
「あの、団長にお伝えしたいことがありまして」
 シャーリーがそう口にすると、すっとセバスが離れた場所に移動する。
 ランスロットはちらりとセバスに視線を向けてから、シャーリーの顔をじっと見つめてきた。
「なんだ?」
 怪訝そうに目を細めているが、それは彼が怒っているからではない。些細な仕草であるが、彼がどのような気持ちでいるのかをシャーリーも感じ取れるようになっていたのだ。
「あの。資料室にある私の席ですが。資料室から団長の執務席のお側に移動させてもらいたくて」
 ランスロットの黒い目が一際大きく開いた。
「いいのか?」
「……はい。私も仕事に慣れてきましたので。それに、アンナに確認したところ、以前は同じ部屋で仕事をしていたと聞いたので」
「君がそれで問題ないのであれば、すぐに移動させる」
「よろしくお願いします」
 シャーリーは、ランスロットの顔から視線を逸らして、スープをすくった。
 恥ずかしさとやりきった感が同時に込み上げてきて、彼の顔をまともに見ることができなかった。
 視線を外したまま、シャーリーはもう一度ランスロットを呼ぶ。
「団長」
「なんだ?」
「ありがとうございます」
 そう口にすることで精一杯だった。
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