夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 彼は間違いなくシャーリーの記憶を気にしている。
 何しろ、二人は結婚をしているのだ。夫婦なのだ。例え、シャーリーにその記憶がなかったとしても。
「シャーリー。泣いているのか?」
 ランスロットに指摘され、彼女は自分でも知らぬうちに涙を流していたことに気づく。
「え? あ、ごめんなさい」
 慌てて涙を隠そうとしたが、ランスロットの長い指がそっとそれを拭った。
「不安にさせてしまって、悪かった」
「違うんです」
 シャーリーはラスロットにしがみついた。
「私、悔しいんです……」
 きしむような胸の痛みに耐えながら、シャーリーは絶対にランスロットに伝えたかった言葉を口にする。
「私、ランスロット様が知っているシャーリーになりたい……」
 その言葉に、彼がゴクリと唾を飲み込んだのがわかった。
「だが、シャーリーはシャーリーだ」
「ですが。私は何もわからないんです。結婚したことも、もちろんお付き合いしていたことも。ランスロット様の中にいるシャーリーは私ではない。それが悔しいんです」
「シャーリー、抱きしめてもいいか?」
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