夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
◇◇◇◇

 身体がふわふわと浮いている感じがした。
 真綿に包まれているかのように温かなものに包まれ、あれほど痛んだ頭も嘘のようにすっきりとしていた。
 ゆっくりと目を開けると、ランスロットの顔が視界に入った。
「ランスロット様?」
「ああ、シャーリーか。悪いがもう少しで馬車に乗る。このまま俺に抱かれていてくれ」
「え? あ、はい」
 温かいと感じていたものはランスロットの体温だった。シャーリーは彼に頭を預けた。
 あれほど男性に触れることが怖かったのに、彼だけは特別だ。
 彼から伝わるのは恐怖ではない。
 そのまま彼に抱かれ、馬車に乗る。シャーリーはランスロットの隣に座っていた。
「具合はどうだ?」
「大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「いや……。あ、心配していなかったという意味ではないのだが、君が気にする必要はないということだ」
「はい」
 それ以上、ランスロットは何も言わなかった。
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